知られざる静東(静岡県東部)の魅力を、ストレンジャー(よそ者)ならではの視点と感性で発掘する、それが「静東ストレンジャー」。


県中部・静岡市の出身ながら、東部エリアが好きすぎて、長年暮らした東京から移住してきた男、Sage(セージ)がお届けします。


今回ご紹介するのは、JR沼津駅から徒歩圏内にある昭和レトロな喫茶店。昨今よくある「レトロ風カフェ」じゃなくて、正真正銘「レトロな喫茶店」ですからね!なんせ開店が1935(昭和10)年だというんですから、いやはや恐れ入っちゃいます。


紹介しといてなんなんですが、こちらは「時間に追われてる方」にはオススメできません。また、「団体で来てワイワイ騒ぎたい方」にも不向きです。


その理由は、最後まで読んでくださればお分かりいただけますよ。



初心者だと見落としそうな「シンプル外観」


沼津駅南口からすぐの「仲見世商店街」を抜けて信号を渡ると、現れるのが「新仲見世商店街」。


その中ほどで静かに営業してるのが、今回ご紹介するレトロな喫茶店「ケルン」です。



店頭にショーウィンドウもなく、ただ控えめな看板が出ているだけのシンプル外観のため、一見さんだとそこが飲食店だと気づかないかもしれません(私も最初は気づかなかった)。


たとえ気づいたとしても「今どきのカフェ」とは全く異なる独自のムードに気後れして、足を踏み入れるのをためらってしまうかもしれません。


イヤイヤご安心ください、ハードルの高いお店とかでは全然ないですから。



厨房とホールをひとりでまかなう80代の名物店主


うす暗くて細長い通路を進んだ先に、目指す「ケルン」はあります。さぁ、勇気を出して入ってみましょう。


通路にはこんなディスプレイがあって、「ケルンワールド」はすでに始まっています。



ディスプレイコーナーを過ぎると、ついに扉です。近年では滅多にお目にかかれないアンティークな「模様入りガラス」がとっても美しい~!



勇気を出して扉を開けると、「いらっしゃ~い」という優しい声が出迎えてくれます。


声の主は、店主の藤原美恵子さん(82)。美恵子さんはなんと、80代ながらホールと厨房とを「たったひとりで」切り盛りされてるんですよ!



美恵子さんに「こんにちは」と挨拶したら、ゆったりとしたソファ席に向かいましょう。



随所に「昭和感」あふれるシックなレトロな空間


席に座って一息ついてたら、美恵子さんがお水とおしぼりを持ってきてくれました。



昔ながらのタオルおしぼりで、昭和好きならもうこの時点で「たまらな~い!」という感じになりますよ。


各地の民芸品が並べられた店内の飾り棚も「ザ・ショーワ」なオーラを放っています。



こんなに楽しいジオラマ(?)まであるんですよ。




サービスランチは王道的な「昭和の洋食」


さてと、何をいただきましょうかね。


前にお邪魔したときは、昭和喫茶の定番メニュー「クリームソーダ」をいただいたんですが



今回はお腹が空いてたので、気になってた「サービスランチ」にしました。ちなみにお値段は総じてリーズナブル。なのに全て「税込み」なのが、とっても太っ腹です。


こちらはドリンク系メニューの一覧。



こちらはフード系です。



サービスランチをお願いすると、「ちょっと時間がかかっちゃうんだけど……いいかしら?」と美恵子さん。もちろん、全然オッケーですとも!


スマホをいじりながらノンビリ待っていると……やってきましたよ~、待望のサービスランチが!



ひゃ~、おいしそう! このボリュームで「税込み700円」だなんて、なんか申し訳なくなっちゃいますよ。



お皿いっぱいに盛り付けられたお総菜は、串カツ(豚肉・玉ねぎ・ピーマン)、コロッケ、照り焼きチキン、卵焼き、サラダ(ハム、トマト、きゅうり、レタス、キャベツ、パセリ)。そこにご飯、豆腐の味噌汁、漬物(たくあんと白菜)が添えられています。


サクサク食感の串カツにはソースをしっかりかけましょう。



サラダにはマヨネーズをたっぷりつけますよ~。



これぞまさに「昭和の洋食」の王道的な味わい方! いただきま~す!!!!



来店の二大ルールは「少人数で」と「急かさない」


食後の雑談の中で「DOMO+」への登場をお願いすると、「今よりもお客様が増えちゃうと、ひとりでは対応しきれなくなるから……」と当初かなり難色を示した美恵子さん。


「いえいえ、お店のそういう事情をちゃんと説明して、それを理解してくれる方だけ来てもらうようにしますから!」と説得して、ようやく承諾をいただけました。


冒頭で「二つの注意点」を挙げたのには、そういう理由があったのです。


いらしているお客様は老若男女を問わず、お店の状況を理解している方ばかり。


常連客らしき年配の男性は、「遅れちゃってごめんなさいね~」と恐縮する美恵子さんに「いいよ、ゆっくりで」と笑っていました。


旅行者らしい若い男性客は、なんと自分の使った食器をカウンターまで運んでいったりしてて、その距離感は「店と客」というより「祖母と孫」。


美恵子さんにしてもお客様を送り出す際には必ず「忘れ物ないわね?大丈夫ね?」と声掛けしてくれて、「店にいる」という感じはますます薄れます。



だからこそ、こちらには「時間の余裕のある日」に「少人数」で訪れてほしいのです。


「団体」で押し掛けて「まだですか~!?」みたいに急かしたりしたら、せっかくの家庭感が壊れてしまいますのでね。



お父さんから引き継いだ店を自分ペースで守る美恵子さん


伺ったのは冷え込みが進んだ日だったのですが、「ケルン」における熱源は昔懐かしい「石油ストーブ」。どこまでも昭和チックな空間なんです。



「ケルン」の創業者は今は亡きお父さんで、美恵子さんは結婚をする前も、してからも、ずっとお店を手伝ってきたんだとか。平成2年にお父さんが亡くなった後は、美恵子さんが二代目店主となって切り盛りしておられます。


元々は「純喫茶」(アルコール類は扱わず、純粋にソフトドリンクだけを提供する喫茶店)だったそうですが、お客様からのリクエストに応えて、フードメニューも扱いだしたのだといいます。


沼津が大いに賑わった高度成長期には複数のスタッフを雇って長時間営業をしていたそうですが、現在では「美恵子さん単独でやっていけるペース」に移行しています。


「朝8時半~夕方4時」という限られた営業時間ではありますが、それでも「一日中立ちっぱなし」は見るからに大変そうです。


「シンドくないんですか?」と伺ったところ、「ずっと立ってるほうが楽なのよ。座っちゃうと、また立ちあがらなきゃならないでしょ? そっちのほうが大変よ~」とニッコリ笑う美恵子さん。


「照り焼きチキンがものすごく香ばしくて美味しかったです」と話すと、「ひとりだから、焼いてる途中で電話とか来ると、ちょっと焼けすぎちゃうこともあるのよ。そのせいかもね」と美恵子さん。


そんなに忙しいのに作り置きはせず、たとえば串カツは「オーダーが入った時点で一本一本、具材を串に刺していく」んだとか。これもまた「昭和的な丁寧さ」なんでしょうね。


皆さんも「昭和の喫茶店客」になったつもりで、沼津まで素敵なひとときを過ごしに来ませんか?



その際は、先に挙げた「二大ルール」をくれぐれも忘れないでくださいね!?



ケルン
静岡県沼津市大手町4-5-14
TEL:055-962-3439
営業時間:8:30〜16:00
定休日:日曜日


<ライター>

Sage(セージ)
静岡中部の出身ながら東部エリアに魅了され、長年暮らした東京から沼津市へ移住。静東(静岡東部)の魅力をストレンジャー(よそ者)ならではの視点と感性で掘り下げる「静東ストレンジャー」として活動中。

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