ドーモプラスが俳優をはじめ、さまざまな分野で光を放っている仕事ビトにクローズアップし、これまでの道のりを辿る連載企画「マイ・ブックマーク」。
第4回にご登場いただくのは、舞台『刀剣乱舞』シリーズなどの大人気作品から、ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』、『マタ・ハリ』などのグランドミュージカルまで、幅広い舞台作品で活躍されている俳優・東啓介(ひがし・けいすけ)さん。
5月1日(水・祝)からNew Musical『Color of Life』に出演される東さんに後編では、俳優の仕事を始めたきっかけや、奇跡のような出会い、憧れていたアルバイトなどについてお話を伺いました!
インタビュー前編はコチラ
悩みながらも前へ。挫折を越えて歩む芝居の道
――東さんが俳優というお仕事を始めたきっかけについて、聞かせていただけますか。
小学校の頃からずっとテニスを続けてきて、テニスのインストラクターを目指していたんですが、高校の時に両膝をケガしてしまったんです。医者からも「今後はおそらく本気でテニスをできるようになることはないだろう」と言われて、そのまま挫折をして。その後、半年くらい何もすることがないという時期に、友人が雑誌の裏にあったオーディションの広告を見せてくれたんです。それで今の事務所のオーディションを受けに行ったという流れですね。
だから最初にあったのは「お芝居をしたい」という気持ちというよりは「どこかほかの場所でテニスがしたい」という思いで、それだけを胸にこの世界に飛び込みました。
――その結果として掴んだのが、ミュージカル『テニスの王子様』の千歳千里役だったんですね。
そうです。
――これまで出演された作品のうちで、ご自身が大きく変われた、成長できたと感じた作品について伺いたいのですが、振り返ってみていかがですか?
歌に関しては、『マタ・ハリ』(アルマン役)で大きな成長をすることができたと僕自身は思っています。お芝居の面では、昨年座長を務めさせていただいた舞台『命売ります』(山田羽仁男役)ですね。そこで成長できたのか、あるいは新しいことを発見したのか……そういう感覚があります。
――成長には何かを乗り越えることがつきものですが、壁にぶつかったと感じた経験はありますか?
いやもう、壁しか感じないですね。毎回「分かんないなぁ」と思うことはありますし、「どうやったら伝わるんだろうか?」とか「どうやったらあんなお芝居が上手い人たちみたいになれるんだろう?」とか、作品が変わるごとに感じます。悩むことのほうが多いです。
――それも、もっと上を目指したいという向上心があるからこそではと思います。では、お芝居をする際に、東さんにとってのモチベーションとなっているものを聞かせてください。
家族やファンのみなさまの存在でしょうか。応援してくれる人がいたり、「次の出演作が決まったよ」と言うと自分のことのように喜んでくれる家族がいたりすると、もっと頑張りたい、お芝居をもっとやっていきたいと思いますね。
進化の過渡期にまとう色は「何にも染まり切らないグレー」
――ここからは、『Color of Life』にちなんだ質問をいくつかさせてください。先ほど作品の魅力のひとつが“出会いの奇跡”だとおっしゃっていましたが、ご自身にとって奇跡のように感じている出会いはありますか?
事務所の先輩の、柳下 大くんです。出会ったのは昨年の春にRock Musical『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』で共演した時だったので、かなり最近なのに、ものすごく親身になって話をいろいろと聞いてくれるんです。
何でも相談できて、「こうしたほうがいいんじゃない?」というアドバイスもさらっと言ってくれるし、自分がこれまでやってきたものを全く惜しむことなく教えてくれる……そういう姿がとてもすてきな方で。今でも週に一度は会うくらいの仲の、尊敬できる兄貴のような人です。出会えたのは本当に奇跡だったなって、今でも思いますね。
――大切な先輩なんですね。刺激し合える同志のような役者さんを挙げるとしたら、どなたでしょうか?
山木 透です。所属している事務所も別だし、これまでに共演もしていないんですけど、通っていた養成所が同じだったんです。その頃から7〜8年、ずっと付き合いのある親友なので、会うとやっぱり刺激をもらえますね。思えば高校生時代から「共演できるように、いっしょに頑張ろうね」ってやってきたので、どこかで仕事ができたらいいなって話をしてます。
――いつか共演できる日が楽しみですね。次に、作中では和也とレイチェルが共に暮らす“90日”がひとつのキーワードになっているかと思うのですが、3ヶ月の時間があったらどんなことがしたいですか?
この前ニューヨークに行った時に、語学留学しに行きたいなってめちゃくちゃ思いました。もっと英語を話せたらよかったと感じる場面がたくさんあったんです。現地の方たちともっと交流を深めたかったですし、いろんな場所に行ってみたかったなって。
――今回渡米される際には、事前に英語を勉強されたりはしたのでしょうか?
もともと両親がずっとアメリカで働いていたこともあって、全部聞き取ることはできるんですけど、しゃべるとなるといかんせん単語が出てこなくて。高校の頃の教材を見ながら「あぁ、こんなのもあったな……」みたいな感じでやってました。だから、3ヶ月あったら今度はじっくり行ってみたいですね。
――和也は、言わばスランプのような状態になり、それを脱するためにニューヨークへ行くという行動を起こすわけですが、東さんは自分が停滞しているなと感じた時にはどんな方法をとりますか?
それこそ、大くんとご飯に行って話を聞いてもらったりしますね。僕の場合は、どこかに行くというより、誰かと会うことのほうが多いです。例えば、親であったり、親友であったり……。会うだけでも気持ちが変わりますし、たまに「つらい」って言うと「どうした?」って尋ねられて、その流れで話を聞いてもらうこともあります。
――気心の知れた人の存在は助けになりますよね。では“人”にちなんだ質問を続けて――和也とレイチェルは、飛行機の中で初めて出会ったにも関わらず、すぐにお互いの距離を縮めていきますが、ご自身は全く知らない人ともぱっと仲よくなれたりするほうですか?
仲よくなれますね。気が合う相手なら、相手が男性でも女性でも普通にしゃべります。話すうちに相手に興味が出てきて、ずっと話していたりするんじゃないかと。お店の店員さんと仲よくなることもよくありますし。
――あまり人見知りされないんですね。
そうですね。でも、前はかなりの人見知りだったんですよ。初対面の人とのシチュエーションで「よろしくお願いします」って挨拶をした後、しーんとしてしまったりすると「えーと……、どこのご出身なんですか?」みたいな質問をして(笑)。
――その空気感、何となく分かります(笑)。
そういう、とりとめのない会話をしようと苦心することが、よくありました。
――もう一点、『Color of Life』のタイトルにちなんで、自分にとっての人生に欠かせない色や、目にすると落ち着いたり元気が出たりする色があったら、教えてください。
僕、オレンジ色が好きなんです。身に付けたりしたことは一度もない色なんですけどね。ちょっと変わった話かもしれませんが――小さい頃に、母のことがオレンジ色に見えたことが何度かありまして、それが今でも印象に残ってるんです。そうやって人を見ると色のイメージが浮かぶことがよくあるんですけど。だからなのか、夕陽を見たりだとか、そういう温かい雰囲気のものに触れたりすると、すごく心が落ち着きます。
――興味深いですね。では例えば、東さん自身は何色ですか?
僕はグレーですね。闇色です(笑)。
――それは、こうなりたいというイメージを持って、意識的にグレーに近付けていたりする感覚なのでしょうか。
そうですね……もともとは2.5次元作品などに出させていただくうちに、グランドミュージカルに携わるようになり、それから今作のような小劇場で上演されるミュージカルなどでも演じるようになって。言わば、どんどん新しいジャンルに挑戦している状態なので、それに合わせて色を変えていく途中のような感じです。まだ染まりきれていない、だからどっちつかずなグレーなのかなって。
「オムライスが美味しくて」憧れていたアルバイトとは?
――DOMOがアルバイト求人媒体ということで、アルバイトについてのお話も伺いたいのですが、チャンスがあったらこれをやってみたかったという、憧れのアルバイトはありますか?
なかなか難しいですけど……。あ、僕、ガストのキッチンをやってみたかったです。
――ピンポイントでガストなんですね。何かお好きなメニューがあったのでしょうか?
友達がガストで働いていたので、よく行っていたんですが、オムライスが美味しかったんですよ。そればっかり食べに行って、作り方を教えてもらったりしてました(笑)。そういうキッチンみたいなアルバイトって、家でも料理を作れるようになったりして、後々で自分の身になるじゃないですか。そういう業種で働いてみたかったなって思います。
――料理ができるようになるというのは、分かりやすく役に立ちますよね。
それに、調理をしたりしながら黙々と作業をするのって、自分に向いてる気もするんです。
――では最後に、夢に向かって頑張っている読者に向けて、応援のメッセージをお願いします。
自分がやりたい職業や、自分にとって一番だと思うものに、僕は一生懸命になれているなと感じているんですけど。諦めずに自分のやりたい仕事を見つけて、その過程で尊敬できる人や、高め合える仲間と出会っていってもらえたらいいんじゃないかなと思います。
人とのいい巡り合わせは必ずあると思うので。まずは自分の好きな仕事に就けるよう、いろんな人と触れ合ってみたり、勉強したりしていただけたら。そして何か行き詰まった時には、演劇に触れ合ってみてはいかがでしょうか。
舞台でのキャリアを着々と積み上げながらも「悩むことのほうが多いです」と胸の内を明かしてくださった東さん。自らを省みながら、挑戦を続けているからこそ、ご自身の目標でもあった帝国劇場への道が拓けたのではと感じました。周りの人を大切にするエピソードの端々からは、彼の人間愛もうかがえたような気がします。東さんの今後の飛躍が楽しみですね。
取材・文:古原孝子
Photo:青木早霞(PROGRESS-M)
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