ドーモプラスが俳優をはじめ、さまざまな分野で光を放っている仕事ビトにクローズアップし、これまでの道のりを辿る連載企画「マイ・ブックマーク」。第4回にご登場いただくのは、舞台『刀剣乱舞』シリーズなどの大人気作品から、ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』、『マタ・ハリ』などのグランドミュージカルまで、幅広い舞台作品で活躍されている俳優・東啓介(ひがし・けいすけ)さん。
前編では、5月1日(水・祝)からDDD青山クロスシアターでの出演を控えたNew Musical『Color of Life』にまつわるお話をたっぷり語っていただきました。
インタビュー後編はコチラ
出会いの奇跡を描いた物語で「新しい自分を見せたい」
――まずは、New Musical『Color of Life』(※)の和也役をオファーされた時の心境を聞かせてください。今作の脚本・作詞・演出をされているのは石丸さち子さんですが、東さんが石丸さんの手がける作品に出演するのは、ミュージカル『スカーレット・ピンパーネル』、『マタ・ハリ』、Rock Musical『5DAYS 辺境のロミオとジュリエット』に続き4作目になるそうですね。これまでにコミュニケーションも深まっているかと思いますが、出演を依頼された時はどんなことを感じましたか?
(※大震災をきっかけに画題を失ってしまった画家・和也と、同性の恋人を亡くした女優・レイチェルが、ニューヨーク行きの飛行機で偶然隣り合わせになったことから始まる、出会いとそれがもたらす喜びを描いた物語。オフ・オフ・ブロードウェイの国際演劇祭にて4部門受賞作)
プレッシャーはものすごく感じました。『Color of Life』は、さち子さんが一から生み出し、物語の舞台であるニューヨークでも上演された思い入れの深い作品だということも知っていたので、「それを担う役が自分に務まるのか?」とはすごく考えました。
でもそうやって(役を任せたいと)おっしゃってくださっているからこそ、さち子さんにもお客様にも、新しい自分を見せたいなと思って。嬉しさとプレッシャーを同時に感じました。
――過去に上演された今作をご覧になっていると伺いましたが、作品のどこに魅力を感じられましたか?
出会いの奇跡、ですかね。例えば人とすれちがって「すみません」「どうぞお先に」というやり取りをしたりする。そういうのって誰しも日常であることだと思うんです。そんな出会いが意図しない方向、それも和也とレイチェルの双方にとっていい方向へ繋がっていくというのが、とてもすてきで魅力的だなと思います。
――ご自身が演じる和也役の魅力はどんなところにあると思いますか?
和也はかわいいんですよね。恋に落ちている男子そのもので(笑)。レイチェルと出会った最初は「海外の人に絡まれちゃったな……あんまりしゃべれないのに」みたいな感じだったのが、レイチェルの魅力に気づいて「どうして悲しいことを楽しそうに話すんだろう?」「でもなぜか、話していると楽しいな」と感じるようになって。そうするうちに「自分はこの子といっしょにいたいんだ」と気付く……そういうピュアなところがすてきだなと思います。
――和也の職業は画家、年齢は東さんご自身より年上の設定だと伺いました。どんな人物像を描いていますか?
今回の役は、僕の実年齢より少しだけ上の25〜26歳くらいで設定されているんです。僕の祖父も画家だったのでちょっと分かるんですが、ほかの同世代より精神年齢がやや高い印象なのかなって。でも、こだわりが強くて、ある部分ではすごくわがままで子どもっぽくなったりするんじゃないかとも考えてみたり。落ち着いて見えるけど、ものすごく無邪気な人なのではというのが、僕の印象ですね。今、稽古をしながら探っています。
――おじいさまは画家をされていたんですね! なにか巡り合わせのようなものを感じます。
オファーをいただいた時に「画家の役!」って思いましたね。むしろ僕より両親がそう思ったみたいで、すごく喜んでくれました。それで僕も祖父の絵を見に行ったりして。和也が描いている油絵とはちがって、水彩画や色鉛筆画なんですが、それでも画家というところは同じなので、僕自身もとても嬉しかったです。
――ちなみに、ご自身も絵を描かれたりは?
します。僕は色をのせることが上手くないので鉛筆だけで描いたり、書道もやるんですけど、そちらは墨だけだったりと、全然色彩豊かじゃないんですけどね。色をのせなくても、影を付けたりすることで立体的に見えるのが面白いなと思います。あとは、鉛筆を削るだけで済むので、手間がかからないなって(笑)。
二人芝居への挑戦「純粋にレイチェルに転がされようと思います」
――すでに稽古が始まっているとのことですが、手応えはいかがでしょうか。
二人芝居のミュージカルというものに初めて挑戦しているので、リアリティを出しつつ、それを拡大(して芝居に)する難しさを感じています。今回は対面客席なので、そういう作りの舞台での動き方にまだ慣れていないなという感覚もあるので。今までとってきた手法ではなく、ちょっとちがう部分を使わないとダメだなと、今研究中です。
――二人芝居という難しいものに挑戦されて、役者としての発見はありましたか?
何もしない、ということですかね。見せようとしてしまうと、世界観が壊れてしまったり、日常感がなくなってしまったりするので、そこが難しいです。ストレートプレイの作品ならそういうやり方もありかなと思うんですけど、今回はミュージカルなので……うーん。それが今回の発見でしょうか。そこを魅せられるようになっていきたいなと思っています。
――レイチェル役の青野紗穂さんと実際にお芝居されてみての印象はいかがですか?
実は昨日、初めて稽古場でいっしょになったところなんですが、すごく無邪気で、直感のままにやっている感じがあって、それがとてもレイチェルっぽいなと。「これ欲しい!……やっぱいいや」みたいな、ちょっと大らかな感じ?(笑) そんなところがとても役に合っていると思いますし、僕もそういうのが苦ではないので、とてもやりやすいです。話も合うんですよ。
――お芝居には台本にすでにある部分以外に、お二人ならではの色に染まっていく余白のような部分があると思うので、お二人が作り上げる和也とレイチェルが楽しみです。
『Color of Life』にはアドリブでセリフを言っていいシーンがけっこうあるので、僕もとても楽しみですね。
――レイチェルは大らかなところがあると思うとのことでしたが、東さんは和也をどう演じようと考えていますか?
純粋に、レイチェルに転がされようかなと思っています。特に前半では和也があまりしゃべらないので、レイチェルの投げかけてくる言葉や仕草に新鮮にリアクションをとって、彼女を好きになっていけたらいいかなと。
役の魅力を歌に込めて
――何作もの舞台作品に出演されてきましたが、『Color of Life』でこれまでの舞台とちがいを感じられたところがあったら聞かせてください。
これまでで一番、楽曲の難しさを感じています。歌稽古もそれほどなかったので、自分で楽譜を読み解く作業にかなり時間がかかりました。でも、こういう機会をもらえたからこそ、楽曲をより勉強することができたと思います。
やっぱり歌の力ってすごく大きいと思うので。僕自身も歌が好きですし、そこで和也の魅力を引き出していけたらと考えています。
――歌といえば、東さんが歌われる劇中歌「カラー・オブ・ライフ」のレコーディング映像が公開されていますよね。どれくらいの期間レッスンをされてレコーディングに臨まれたのでしょうか?
あの曲は、1日だけですね(笑)。レコーディングをするかもしれないという状況から、急遽録ることになりまして。全く練習できていなかったんですが、その場で歌って少しディレクションをいただいて、レコーディングしました。
――それであの表現力とは! ほぼ即興ということですよね。
もともと楽曲が持っている力が大きいので、そこに僕が“自分だったらどうするか、どう心が動くか”を加えて……あの時はわりと衝動的に歌っていましたね。
――歌う時のこだわりは、感情をのせるということなのでしょうか?
こだわりは2つあります。感情もそうですし、あとは言葉。日本語の歌は1音に入れられる文字数が限られているので、耳にした時に何と言っているのか聞き取れなかったらストレスですよね。同じ音の単語でもアクセントが変わったら別の意味になるものもよくありますし。だから、言葉を意識しつつ、強弱にも気を付けて発音するようにしています。
――レコーディングで歌う時と、舞台で歌う時では、感覚に差があったりはするのでしょうか?
ありますね。舞台で歌う時のほうが、より言葉を大事にしながら、歌い方も楽譜通りというよりは許容される範囲で揺らしたりしながら、感情を伝えていくことを大切にしています。
――動画を拝見した時に高音の美しさに驚きました。歌うことはもともとお好きでしたか?
実は僕、歌うのがめちゃくちゃ嫌いな人間だったんですよ。カラオケにも中学3年生の後半に初めて行ったくらいで、そこでも歌うのが恥ずかしいから聞いているというタイプでした。
それが、この仕事を始めてみんなで作品を作り上げていく楽しさを知って、自分から「もっと歌いたい」と思うようになったんです。その時からボイトレを始めたりもしました。でも、自分の声をいい声だなと思ったことは一度もないので(笑)、そうやって褒めてもらったりするのはすごく不思議な感覚です。歌い込んでも(これでよしという)ゴーサインはなかなか出さない性格ということもあって、常に上を目指して歌い続けていこうというのが今の思いです。
ストーリーの舞台、ニューヨークでの体験
――作品の舞台となっているニューヨークに実際に足を運ばれたそうですね。たくさん刺激を受けられたかと思いますが、どんなことが印象に残っていますか?
いろんな人種の人がいるからか、周りの人に温かい国だなというのはすごく感じました。ひとつひとつの建物も、日本とは比にならないくらい大きいですし。毎日がお祭りみたいな場所で、今までにない感覚を味わったように思います。
――どれくらいの期間滞在されたんですか?
1週間くらいです。その間に、お芝居も『ライオン・キング』『オペラ座の怪人』『スリープ・ノー・モア』『ディア・エヴァン・ハンセン』と4つ観ました。どれもめちゃくちゃ良かったです。
――本場でナマのお芝居を観るという体験は、かなり刺激になりそうですね。
周りからもずっと「行ってみたほうがいいよ」と言われていて、どんな感じなのかなと思っていたんですが、もう想像以上にすばらしかったです。言葉は全然分からなかったですけど、それでも伝わってくるものがあって。
――お芝居は、一度見だすとどんどん引き込まれるところがある気がします。ミュージカルを観たことがない人や、気にはなっているけれどどう飛び込んだらいいのか分からないという人に向けて、『Color of Life』ならではのミュージカルの魅力を教えていただけますか。
帝国劇場など(敷居の高さを感じるような)大きなサイズのものではないですし、作品について何も知らなかったとしても、曲がいいのでライブを聴きに行くような感覚で来てくださるのもいいんじゃないかと思います。すてきな曲とシンプルなストーリーが『Color of Life』の魅力だと思うので、ミュージカルやお芝居になじみがない方にも分かりやすいのではないかと。
今回は対面客席ということもあって舞台をさまざまな角度から観られるので、自分でもいろいろと想像しながら感じられると思いますし、ふらっと二人の日常を見に行くような感覚で来ていただけたら「この曲、すごく引き込まれるな」というような感覚がきっと生まれてくると思います。だから、まずは気軽に来てもらえたら嬉しいですね。「なんだこの幸せな二人!」って、楽しめると思うので。
――(笑)。それを表現するために今、稽古に励まれているわけなんですね。
恋人だけでなく、家族や友達など、誰かと会って、触れ合いたくなるような作品になっていると思います。五月病という言葉があるような季節の、なんだか活力がなかったり、やる気が起きなかったりする時にこの作品を観ていただけたら「明日あの人と、ちょっときちんと話してみようかな」とか「まだまだ始まったばかりだから、もっと人を知ってみようかな」と思えるんじゃないかと思うので、そういう手段としても使っていただければ。
――公演を楽しみにしているみなさんに、一言お願いします。
5月1日から27日という長い期間、DDD青山クロスシアターで上演しておりますので、行き詰まった時や、何か演劇に触れてみたい、歌が聴きたいという時、少し自分を見つめ直したい時に観に来ていただけたらと思います。僕らもそのために全力で挑みますので、ゴールデンウィークや休みの日にぜひお越しください。劇場で待っております!
時折見せるくしゃりとした笑顔が魅力的な東さん。作品や自身が演じる役柄について真剣に、生き生きと受け答えしてくださる姿からは、『Color of Life』という作品だけでなく、お芝居自体と真正面から向き合って取り組まれているさまがうかがえました。後編では俳優の仕事を始めたきっかけや、東さんにとっての“奇跡的な出会い”、憧れていたアルバイトなどについてお話ししていただいていますので、どうぞお楽しみに!
取材・文:古原孝子
Photo:青木早霞(PROGRESS-M)
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