ドーモプラスが俳優をはじめ、さまざまな分野で光を放っている仕事ビトにクローズアップし、これまでの道のりを辿る連載企画「マイ・ブックマーク」。第3回目にお話をうかがったのは、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」白布賢二郎役や、舞台「レイルウェイ」滑川達也役などで注目を集める俳優・佐藤 信長(さとう・のぶなが)さん。


現在舞台『カエデソウ』へ出演中の佐藤さんに、前編では俳優業への道のりや、初舞台の経験を通して得られたもの、演技へのモチベーションとなっているものなどについて語っていただきました!


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密かに抱いていた夢を引き寄せた、逆境での強さ



――まずは、俳優のお仕事を始める以前のお話から伺わせてください。学生時代はバレーボールを10年ほど続けられていて、ご出身である宮崎県の選抜にも選出されるほど打ち込んでいらしたとのことですが、そちらの道に進もうという気持ちはなかったのでしょうか?



僕は高校までバレーボールを続けていたんですが、大学でのトップクラスになるとレベルがぐんと上がるので、身長も190cm以上が当たり前みたいな世界になって、僕の身長だと単純にきびしかったりするんです。それがあって諦めたというわけでもないんですけど。

でも中学、高校と部活で毎日みっちりやって満足したのもあって、一度バレーから離れて別のことにも挑戦したいなと思うようになったんです。大学でもサークルで趣味程度にバレーをすることはできるから、普通の生活というか、ゆっくりした感じの生活をしてみるのもいいかなと思い、がっちりバレーをやるのは高校までで終わりにしました。





――運動部に所属していると、それ中心の生活になることが多いですよね。



そうなんですよね。高校までは毎日部活でバレーボール一色の日々で。しかも、高校までは片道8kmを自転車で通っていたんです。僕の実家は自転車をこいで上れないくらいのかなり急な坂の上にあるので、朝は下り坂なんですけど、部活でめちゃくちゃ疲れている帰り道に自転車を押しながら上って……それを毎日やることで、無意識のうちに足腰が鍛えられていた気がします。





――毎日ともなると、なかなかいいトレーニングになりそうです。では、俳優のお仕事をしたいと思うようになったきっかけについても聞かせてください。


中学生くらいの頃から、頭の片隅に「俳優っていいな」っていう思いがずっとあって。だけど、そういうのを言い出すのって、なかなか勇気がいるじゃないですか。中学、高校と普通に地元の高校に行っているのに、急に「東京に行きたい」とは言えなかったんです。





――「急に何を言い出すのか?」という空気になりそうな予感はしますね。


大学は名古屋に出て通っていたんですが、友達にジュノンのコンテスト(=ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト)をすすめられたんですよ。そこで挑戦してみたら、ベスト30くらいまでいって。ファイナリスト10人を選ぶランキングの途中経過でもわりと上位のほうにいたので、「いけるな」って確信してたんですけど、ダメだったんです。


でも、そこで落ちちゃったことで「ウワーッ!」と逆に燃えて。同じ時にコンテストを受けていた人たちに負けたくないなと思ったので、この世界に入るにはどうしたらいいかを調べて養成所に入って、それから今の事務所にお世話になっています。





――けっこう負けず嫌いなところがあるんですね。


はい。ファイナリストになれていたら、そこで満足してしまって、今はこの仕事をやっていなかったかもしれないです。





「振り切ったほうが楽しい」初舞台で得た気付き



――そこから俳優の世界に入って、2016年に初舞台を経験されたわけですが、これまでの出演作で自分が大きくステップアップできたと感じたのはどの作品でしたか?


初舞台の『露出狂』(※1)ですね。出演者が男性しかいなくて、内容は言えないくらいのド下ネタ、DVD化もされていないくらいすごかったんですけど、演っていても面白いし、お客さんの反応を見ても、とても楽しんでくれているなっていうのが伝わる舞台でした。


初舞台だったので稽古場には先輩方ばかりだったんですが、そういう演出がつけられているわけでもないのに、いきなりパンツ一丁になって演技し始めるような、飛び抜けた人や振り切った人がいる現場で。そういうのを見ていたら「振り切ったお芝居をしたり、ここまで自分をさらけ出して表現するのは、観ている側も演っている側も楽しいだろうな」と感じたんです。


(※1 新興強豪として名を馳せる県立高天原高校サッカー部を舞台に、14名×3チーム、総勢32名の男性キャストが繰り広げる、愛憎ありスポ根ありの青春群像活劇。脚本・演出は中屋敷法仁氏)





――演じ手が役に入り込んでいると、観る側も作品に引き込まれますよね。


それまでは役を演じるのが恥ずかしかったり抵抗があったりして、今ひとつ自分の殻が破れずに「あーもう、自分ダメだな」って思っていたりもしたんですけど。それに気付いてからは、僕も先輩方のまねをしながら振り切った演技をするようにしてみたら、褒めてもらえたんです。


その時から「恥ずかしがること自体が恥ずかしいし、振り切ったほうが役者としてもいいお芝居ができるのかな」と思うようになりました。今振り返っても、すごくいい経験でしたね。しかも、トリプルキャストだったので、僕と同じ役を演じている先輩が2人いて。





――露・出・狂と3チームに分かれていたそうですね。


僕はチーム出(いづる)とチーム狂(くるう)に別々の役で出させてもらったんですけど、それぞれに2人ずつ同じ役の先輩がいるという環境で、かなり勉強になりました。演技に迷ったらその方々を参考にさせていただいて「そういうアプローチもあるんだ」って考えたりすることができたので。初めての舞台に、トリプルキャストで2役と聞いた時には「えっ!」って思いましたけど、(得られたものは)すごく大きかったですね。





共演者の芝居を吸収して「演技の引き出しを増やしていきたい」



――演技をする上で、佐藤さんが大切にされているのはどんなことですか?


僕はまだ出演作も多くないですし、経験も浅いので、稽古場では先輩方のいろんなお芝居をしっかり見て、吸収することを心がけています。演出家さんから「いろんなやり方で演ってみて」と言われた時に、自分の感覚だけだと2〜3通りくらいしか思い浮かばなかったりするんですけど、先輩方は10通りも出してきたりするんです。そうやって、自分では考えられなかったアプローチを参考にさせてもらって、演技の引き出しを増やしていけたらと思います。





――意識して周りの方のお芝居を観察されているんですね。


稽古中だけでなく、本番中にも(新しいアプローチが)出てくることが多くて。この前出演した舞台「レイルウェイ」(※2)の時も、日替わりのアドリブも多かったので稽古場にはなかった感触があったりして、毎回の本番が新鮮で楽しかったです。


(※2 劇団ホチキスの米山和仁氏脚本・演出による、コメディ作品。主人公・音無 歌五郎が、ようやく決まった就職先のローカル鉄道「関西(せきにし)電鉄」を廃線の危機から救うため、駅員によるアイドルグループを結成する作戦を立て奔走する。佐藤さんは駅員の滑川 達也(なめりかわ・たつや)役で出演)


劇団ホチキスのお二人、小玉 久仁子さん(坂品 郁子役)と山﨑 雅志さん(石流 智役)が、めっちゃ自由過ぎて(笑)。すごく面白かったです。舞台の上で、自分が笑う場所じゃないのに笑いそうになったりしましたし。





――聞くところによると、日替わりのアドリブ部分で、佐藤さんは名指しでとあることを言われたとか……。


そうなんです! オッキーさん(山沖 勇輝さん/青木田 雄三役)が雑誌を持ちながら登場するシーンでひとこと言うんですけど、「佐藤信長、ダンスが苦手。なのにかなり頑張ってるらしいな」って入れてきたんですよ。そんなことを言ったら、お客さんはダンスの時に僕のほうを見るじゃないですか! そういう日に限っていつもよりテンパってしまって……もう、ちゃんとフラグ回収ですよ(苦笑)。





――そうやって話題にしてもらえると、救われる部分もあったりしますよね(笑)。


別の日には、宇佐 卓真くん(蛭子 隼人役)とダンスバトルもしましたから。また、彼がダンスが上手いんですよ。そんな子とバトルなんて……うん、おいしかったですね(笑)。


――もはやそういうキャラという扱いだったんですね。


ポンコツキャラということだったんですけど、自分は素でポンコツなので。「レイルウェイ」の滑川くんは、演っていて僕なのか滑川くんなのかという感覚になるくらい、共通点の多い役でした。米山さんが台本を書いた時点では、そこまでポンコツじゃなかっただろうと思うんですけど、僕が自分の色に染めたというか。





――オリジナル脚本の作品だからこその役作りの醍醐味ですね。


自分で言うのもあれなんですが、ダンスが上手い人、歌が上手い人がいたりする中で、グループ5人の中にひとりくらい、そういうメンバーがいてもいいかなと思いまして。年齢的には上から二番目だったんですが、一番助けてもらったなと感じています。





助けられて乗り越えた、歌とダンスへの初挑戦



――歌って踊るのは初めてだったということですが、挑戦してみていかがでしたか?


ダンスの振り付けを入れるのにもみんなより時間がかかったので、ダンスが得意な人にお願いして踊ってもらったのを後ろから動画で撮って、スローで確認しながら家でも練習して。それでやっと覚えました。


歌自体はそこまで苦労はしなかったんですけど、ダンスと合わせるとなると大変でしたね。周りは当たり前にできていたり、日頃から歌ったり踊ったりという活動をしている人もいたので、空き時間に「ごめん、いっしょにやって!」と協力してもらって、何とかなったように思います。本当に助けられてやり遂げられた舞台でした。





――他の作品で歌とダンスの経験があるメンバーも多かったと思いますし、初めての挑戦となると本当に大変でしたよね。


そうなんです。主演の修斗さん(鷲尾 修斗さん/音無 歌五郎役)はいろんな舞台で歌ったり踊ったりされていて。諒くん(滝澤 諒さん/八雲 樹役)はそういった活動を普段からしていて。卓真はもともとダンスをやっていた上に、歌も上手いんですよ。経験がなかったのは、晃祐(遊馬 晃祐さん/朝霧 涼平役)と僕ですね。僕ら2人が5人の中では苦労したほうだと思うんですけど、特に僕が……(苦笑)。





――スポーツ経験があっても苦労するとなると、ダンスは運動神経がよければできるというものでもないのかなと思ったりしますが……。


そうなんですよね。僕、運動神経にはけっこう自信があるほうなんですけど、諒くんが「運動神経がめちゃくちゃよくても、ダンスが踊れないっていう人はいるよ」って言っていて。でも、やるしかないと思ったので、空き時間や電車の中、家でもひたすら動画を観たりして頑張りました。





――公演期間中も本番を重ねられたわけですが、滑川として成長できたという手応えはありましたか?


はい。回を重ねるごとに自信もつきましたし、楽しさも増しました。最初はかなり緊張しましたけど、毎日何かしら仕掛けてくる人がいたので、ドキドキしながらもわくわくして。最後にはすごく楽しむことができたのでよかったなと思います。





舞台を観た人の反応を励みに「お客さんが力をくれる」



――お芝居に向き合うに当たって、モチベーションになっているものを教えてください。


本番初日を迎えて、お客さんが観てくれた時の反応を見ること、ですかね。面白い作品だったらたくさん笑ってくれたり、感動する作品だったら泣いてくれたりと、いろいろな反応が返ってくるのを見て「あぁ、よかったな」って思う瞬間がすごく好きなんです。


稽古場だと、当たり前といえばそうなんですがお客さんがいないので、観た人の反応が分からなくて。コメディーの稽古中にみんなボケまくってるのにその場はしーんとしているから、「本当に面白いのかな」って不安になるんですけど。いざ初日を迎えると、狙った場面以外でも笑いが起きたりするんですよね。だから、稽古で行き詰まったりしてつらい時でも「初日を迎えたら絶対楽しいから頑張ろう」と思えているところがあって。そうやって、本番はお客さんからたくさん力をもらっているなと感じています。





――客席にお客さんが入ると、場のエネルギーが変わりそうです。


そうなんです。場所が劇場になるだけでも、感覚が全然ちがいますし。稽古場でももちろん100%でやるんですけど、劇場だとさらに変わるものがありますね。


――舞台はお客さんと同じ空間で向かい合っているぶん、リアクションや熱量がダイレクトに伝わりますよね。


その場で反応が分かるので面白いです。「そこ?」っていう意外なところで笑ってもらえたりもしますし。それを日替わりパートに取り入れたり、逆に狙い過ぎてめっちゃしらけたり……(笑)。「うわ! 昨日あんなにウケたのに、誰も笑ってない!」ってこともありましたけど、そうやってリアクションを見ながらいろいろ試行錯誤するのは楽しいなと思います。





終始にこやかな表情で、取材に応じてくださった佐藤さん。「僕、素でポンコツなんです(苦笑)」としきりに仰っていましたが、俳優のお仕事を始めた経緯や、歌とダンスに初挑戦したエピソードからは、問題に対して自分ができる最善策を全力で探る姿勢がうかがえました。後編では、念願叶って掴んだ白布役についてや、意外な(!?)ストレス解消法、アルバイトでの思い出などについてたっぷりお話ししていただきましたので、どうぞお楽しみに!


取材・文:古原孝子
Photo:青木早霞(PROGRESS-M)


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【プロフィール】
佐藤 信長(さとう・のぶなが)
1995年3月30日生まれ、宮崎県出身。2017年からNHK Eテレ『高校講座物理基礎』物理家(ものりけ)長男役を一年間務める。その他、日本郵政CM『はじめてのお給料篇』、舞台作品としては、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』〝最強の場所〞白布賢二郎役、舞台『レイルウェイ』滑川達也役を務めるなど幅広く活躍中。


<告知情報>
舞台『カエデソウ』
公式ホームページ

<会場>
バルスタジオ

<公演日・開演時間>
4月3日(水) 19:00
4月4日(木) 14:00 / 19:00
4月5日(金) 14:00 / 19:00
4月6日(土) 13:00 / 18:00
4月7日(日) 12:00 / 17:00

※受付開始は開演の1時間前、客席開場は開演の30分前です。


【佐藤 信長さん動画コメント】


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