パートの社会保険への加入条件が、2022年10月から変更になりました。
 

扶養の関係で年間130万円という収入の壁を意識していても、条件によっては社会保険料が発生する可能性があるので注意が必要です。


この記事では、パートの社会保険への加入条件と、法改正によってどう変わったのかについて解説します。



2022年9月迄の社会保険の適用条件とは?


まずは、さかのぼって2022年9月迄の社会保険の加入条件を見ていきましょう。


「一週間の所定労働時間および一か月の所定労働日数が正社員の3/4以上(一般的に週30時間以上)」

ただし、厚生年金の被保険者数が501人以上の企業においては、以下の4つを全て満たす場合は加入の義務があります。


 1. 週の所定労働時間が20時間以上

 2. 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)

 3. 雇用期間が1年以上見込まれる

 4. 学生でない


1. 週の所定労働時間が20時間以上
 

雇用契約書や労働条件通知書などによって、予め決められている労働時間のみが対象となり、残業時間は所定労働時間には含まれません。


2. 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
 

所定労働時間によって計算し、賃金が1ヶ月8.8万円以上になる場合です。残業代や賞与、交通費などは含みません。

給与明細書や契約書を見ても月額賃金がわからない場合には、下記の式を使って算出できます。

※月額賃金=時間給×週の所定労働時間×52週÷12ヶ月


3. 雇用期間が1年以上見込まれる
 

雇用期間が1年以上継続する可能性がある場合が対象です。

1年以上になるかわからない場合や、勤務開始から1年経っていない場合は、就業規則や雇用契約書などを確認し、「契約更新」の記載があれば、条件を満たすことになります。


4. 学生でない


基本的に昼間学生は社会保険の適用対象外です。ただし下記の場合は例外として適用対象となります。

 ・所定労働時間と所定勤務日数が正社員の4分の3(75%)以上の場合

 ・夜間学校や通信制学校、定時制学校に通っている場合



2022年10月以降の法改正で社会保険の加入条件はどう変わったの?


法改正により社会保険の適用条件がさらに広がりました。


具体的には、厚生年金の被保険者数が101人以上で、以下5つの条件全てに当てはまる場合には、社会保険加入義務があります。


 1.週の所定労働時間が20時間以上

 2.雇用期間が2ヶ月超見込まれる

 3.月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)

 4.学生でない

 5.厚生年金の被保険者数が101人以上


法改正後は、勤務期間と勤め先の従業員数の条件が引き下げられ適用範囲が拡大されました。


●雇用期間が2ヶ月超見込まれる
 

雇用期間「1年」から「2ヶ月超」まで引き下げられました。


また、2ヶ月以内であっても、雇用契約書・労働条件通知書などで契約更新についての記載があれば、この条件に該当するため事前に書類を確認しておきましょう。


なお、同じ職場内に同じ雇用契約で就業している従業員が、2ヶ月を超えて雇用された実績があれば、この条件を満たします。


■厚生年金の被保険者数が101人以上
 

従来は「501人以上」でしたが、「101人以上」まで引き下げられました。さらに、2024年10月からは51人以上になる予定です。


この改正により、今までよりも多くの企業が、社会保険加入の対象となります。


法改正によって、勤め先が社会保険加入の対象に該当するかどうか事前に調べておくのがおすすめです。



社会保険に加入したくない場合はどうすべき?


社会保険に加入すると、年金や保険料の支払いで手取り額は減ります。


ここでは社会保険に加入したくない場合に、シフトや給与をどう調整すべきかについてご紹介します。


●働き方を調整する
 

厚生年金の被保険者数が101人以上で労働時間が週20時間以上、雇用期間が2ヶ月以上の場合は、月収を8.8万円未満に抑える必要があります。


社会保険に加入したくない場合には、従業員が100人以下の企業で働くことも検討してみましょう。


また、週20時間未満で働くか、月収8.8万円未満の時期をつくって働くなどのシフト調整が必要です。


●年収130万円の壁を越えないようシフトを調整する
 

年収130万円は、配偶者の社会保険の扶養から外れるラインです。


年収130万円の壁は全ての勤務先給与の合計で判断されるため、パートを掛け持ちしている方は合計年収への注意が必要です。



パートが社会保険に加入するメリット・デメリット



社会保険には、健康保険や介護保険、厚生年金保険といった種類があります。


社会保険に加入することで手当が厚くなるなどのメリットがある一方で、デメリットもあるため、双方を理解し加入するかどうかを決めていきましょう。


●老後もらえる年金額が増える
 

厚生年金に加入し受給資格期間の条件を満たした場合は、65歳から受け取れる老齢厚生年金が増える可能性があります。


受給資格は国民年金の被保険者期間が10年以上必要で、年数は下記によって算出します。


国民年金保険料を納めた期間(厚生年金の被保険者期間を含みます)+国民年金保険料を免除された期間(配偶者の被扶養者になっていた期間を含みます)+両者の合算対象期間


●傷病手当金や出産手当金がもらえる
 

健康保険に加入していると、休日のけがなどが原因で一定期間働けない場合にも、生活保障として傷病手当金が支給されます。


また、産前の42日間および産後の56日間出産手当金が支給されます。


配偶者の扶養に入っている場合や、国民健康保険に加入している場合はもらえないので、社会保険に入る大きなメリットといえます。


●障害厚生年金を受け取るハードルが下がる
 

病気やケガで障害を負った場合、障害基礎年金に加えて、障害厚生年金を受給できます。


障害基礎年金は社会保険に入っていなくても受給できますが、日常生活に支障をきたす程の重い障害でないと受給が認められない点が難点です。


一方で、厚生年金に加入していれば、障害の程度が軽い場合も、障害手当金という一時金がもらえるなど受給のハードルが下がります。


●会社が保険料の半分を負担してくれる
 

国民年金や国民健康保険では保険料が全額負担となりますが、厚生年金保険や健康保険に加入していると半分を会社が負担してくれます。


厚生年金保険では、自分自身が支払った保険料の2倍の額が支払われていることになり、将来の給付額増につながります。


●デメリットは手取り額が減ること
 

パート勤務で社会保険に加入する最大のデメリットは、給与の手取り額が減ってしまうことです。


ただし、会社の社会保険に加入する場合は、前述したように事業主と労働者で折半して支払いをするため、支払いの負担はそれほど大きくありません。


また、社会保険に加入すると、老後にもらえる年金額が増えたり、出産手当金がもらえたりといったメリットがあるので、長い目で見ると支払い額以上に得をするケースもあります。


一方で、個人で国民健康保険や国民年金に加入する場合は、全額を負担することになり、負担額が大きくなります。


つまり、年収130万円超の金額を稼いだにも関わらず、会社の社会保険に加入できず、国民健康保険や国民年金に加入するケースが、最も手取り額が減ることになるのです。


2022年10月の法改正によって社会保険の対象企業が広がることで、保険料の支払い負担を減らしつつ稼ぎやすくなるともいえるでしょう。



ライフスタイルに合わせてシフトを調整しよう!


 

社会保険とは、老後や出産時など万が一の際に備えるためのものです。


手取り額が減ってしまうためデメリットに感じるケースも少なくありませんが、長い目で見ると加入するメリットは大きいでしょう。


社会保険に加入したくない場合にはシフト調整などの工夫が必要になりますが、状況によっては社会保険に加入し、働く時間を増やしたほうが得をするケースもあります。


社会保険に加入するメリットとデメリットを加味し、自分により合う働き方を検討しましょう。



2022年7月15日公開/2023年2月6日更新



<監修>

杉本雄二 社会保険労務士法人ローム静岡 所長

求人情報誌発行・人材派遣の会社で広告審査や管理部門の責任者を18年経験。在職中に社会保険労務士試験に合格し、2005年に社会保険労務士杉本事務所を起業。その後、2017年に社会保険労務士法人ローム(本社:浜松市)と経営統合し、現在に至る。静岡県内の中小企業を主な顧客としている。顧客企業の従業員が安心して働ける環境整備(結果的に定着率の向上)と、社長(人事担当者含む)の悩みに真摯に応えることをモットーに活動している。
<保有資格>特定社会保険労務士
社会保険労務士法人ローム https://roum.info/



<執筆>

DOMO+編集部

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