
ドーモプラスが注目の男子を紹介する連載企画「レコメン図」。第4回は7・8月には舞台『グランギニョル』への出演も決定し、舞台を中心に活躍中の「服部 武雄(はっとり・むお)」さんが登場! 前編では、役者を目指したきっかけや、舞台にかける想いを、たっぷり語っていただきました。
――では初めに、役者をはじめたきっかけから聞かせてください。
服部 武雄(以下:服部):生まれが兵庫県なんですけど、阪神大震災で父親の地元である島根県の隠岐の島に引っ越したんですよ。兵庫にいた頃にこどもミュージカルみたいなのをやっていて、引っ越し後はやれていなかったんですけど、隠岐で神楽というものに出会ったんです。日本の伝統芸能のひとつで“お神楽”って呼ばれていて、それを小学校2年生から高校を卒業して東京に出てくるまで、ずっと続けてましたね。
お囃子で横笛とか太鼓とかやったり、あとはお面をかぶって人の前で舞ったりもするんですよ。お神楽って神を降ろすような行事なんで、地元のおじいちゃんおばあちゃんがたくさん見に来てくれてたんですけど、あるおばあちゃんが人混みをかき分けて自分のところまで来て「背中を撫でてごせ、撫でてごせ」って声をかけてくれて。自分に神が降りてきてるって感じに見てるから、痛いところをさすってもらったら楽になるとか、そういうご利益みたいなのがあったんでしょうね。
それから「すごく感動した、とっても良かったよ」と言ってくれた人もいて。小さい頃のことでしたけど、何だかすごく感動して今でも鮮明に覚えてます。「こんなにいろんな人に影響を与えられるようなことを自分はしてるんだ」ってその時に初めて実感できましたね。そこからそういう仕事をしたいなって思うようになって、今に至ります。
――お神楽がきっかけで、今の俳優の道に進まれたんですね。
服部:そうですね、それが一番大きいです。「人に感動を与えたい」っていう気持ちが生まれたのがそこだったと思います。
――高校を卒業してすぐ上京されて、役者の道を歩みはじめたとのことですが、役者としてのキャリアを積むうちに見えてきた、自分の強みや、演じる上でのこだわりなどはありますか?
服部:自分は舞台をメインでやらせてもらってるんですが、一番大事なのは“出てるキャストがいかに楽しんでその舞台をやっているか”じゃないかなと思っていて。やってる本人たちが楽しんでないと、お客さんに楽しさなんて伝わらないよなって。最初の頃は全然そこまで分からなかったんですけど、今ではいつも頭に置いてやってます。
一緒のキャストにもそれは言うようにしてるし。中にはけっこう厳しい稽古場とかもあったりしますが、それすらも楽しんでちゃんと仕上げることでいい作品になるので。稽古中はひと月くらい毎日一緒にいるカンパニーなんで自然と仲良くもなるし、楽しみながら稽古して、舞台上でも楽しんで表現して、それでお客さんにも楽しんでもらう。それを自分の中ではすごく大事にしてます。
――Twitterやブログのお写真を見ても、みなさん仲が良さそうですよね。楽しい雰囲気が伝わってきます。
服部:稽古場から楽しくやりたいなーって。好きなことやってるんだから、それを楽しんでやらなくてどうするんだって思うし。舞台って娯楽のひとつなので、言ってしまえば観なくても生きられるじゃないですか。そんな中でお客さんが来てくれて、その人たちをその時間どれだけ楽しませられるかかなぁと思ってやってますね。そんな感じに現場の空気も作りたいなぁと。
――そういうお話を伺っていると『マーカライト・ブルー ディーパー』で演じられていたパシオンと性格が似ているようにも思えます。行動力があって、情に厚いところが特に。
服部:あ、確かにそうですね(笑)。パシオンの役をもらった時も、そこはけっこう通じる部分かなと思ってました。「人から良く思われたい」って気持ちももちろんありますけど、結局のところは別に俺自身はどう思われてもいいから、その作品が良くなればって考えなので。共演者の仲がいいのもいいんですけど、その中でぶつかり合うのもいいと思うし。喧嘩してそれで深まるものもある。
言いたいことがあっても、遠慮しちゃって言えないことってあるじゃないですか。今は演出家さんでも役者に遠慮してるなと感じることも多くて、役者同士の方がまだ言いやすい部分もあるので。そこで言えるかっていうのもすごく大事じゃないかと思います。まぁ、やっぱり言いづらさはありますけどね!(笑)。でも、そこで我慢するよりは、いっそぶつかることでよりいいものが作れたらなって。
――熱い気持ちを感じる言葉ですね。先頃まで舞台『Big Mouth』のソラ役で座長を務められていたということですが、その大役を終えた今の心境はどうですか?
服部:『Big Mouth』は昨年の公演でも座長をやらせてもらったりと、思い入れの強い作品なんですよね。プロデューサーとは10年以上の長い付き合いで、「こういう作品を作りたいなぁ」って話をしていて生まれたのがこの舞台だったので。それまで一緒に仕事はしたことがなかったんですが、やりたいことが詰まった作品で、その座長をさせてもらったのは、プレッシャーもありましたけどやりがいがありました。
――随分身体も作り込まれたそうですね。
服部:そうなんですよ! 一応“男性ストリップ”って謳ってるんで、かなり肌を出すんですよ。それなのに見せられる身体じゃないっていうのはやっぱりダメだなっていうのもあって、キャストみんなで鍛えてました。
――みんなで一緒に頑張ろう、と。
服部:プロテイン飲みながら「おい、今日鍛えてなくない!? 筋トレしてなくない!?」「よっしゃ、やるかー!」ってやりとりしたり。基本裸ですからね、稽古場では。お互いの身体を見て「お、きてるねー!」って言ったりして。意味分かんない稽古場でしたよ(笑)。
――ポールダンスもされていたそうですが、あれって簡単にできるものではないですよね?
服部:そうなんですよね。ポールをやってるのって、それまでにも見たことはあったんですよ。すごいなとは思いながらも「けっこうできるんじゃない?」って思ってたんですけど。いざやってみると、まぁできない! (笑)。
――脚の筋力が相当必要なイメージがあります。
服部:そう! 前提として筋肉もいるんですけど、より大事なのが多分いかにポールを押さえる皮膚のポイントを捉えるか。皮膚が擦れるので内股とかすごく黒くなっちゃって。筋肉痛にもなるし、炎症も起こすしでめっちゃ痛いんですよ。なかなか大変だなとは思いましたけど、せっかく経験できたんで今後もやっていこうと思います。
――筋肉よりも皮膚のポイントの捉え方が大事というのは意外でした。
服部:細い女性でもできるから、そうなんじゃないかなって。いやー、難しかった……(笑)。
――ポールダンス、今後も続けて活かしていけたらいいですね。もともとダンスはお得意なんですか?
服部:今までどこかで習ったりしたことはなくて、舞台から入ってダンスをやるようになりました。そこから楽しくなってスクールとか通い出して。今年のアタマ頃には、ひと月くらいロサンゼルスにダンス留学として行かせてもらったんです。自分はエンターテインメントが好きで、舞台でも歌とかダンスがあるようなものをやっていきたいなと思うので、勉強しに行きました。
――今回の舞台は、海外で磨きをかけてきたダンスの披露の場でもあったんですね。『Big Mouth』キャストとの稽古中の思い出のエピソードはありますか?
服部:稽古中の思い出……なかなかエグい稽古なんですよ、これが。身体的にエグいってのももちろんあるんですけど。プロデューサーが演出もやっていて、長い付き合いだからこそ自分のことをよく知ってくれてるので、かなり追い込まれましたね(笑)。
自分がすごく苦手なこととかもやらされて……本当はあんまり言いたくないんですけど、普段絶対モノマネとかそういうのやらないんですよ。だけど、稽古場で「全然ダメ! はい、モノマネやって!」「ちょっと待って、ホントない!! やらないし、できないし!」ってやりとりを30分くらいして。
結局「いいからやれや!」って押し切られて、そこにいるほかのキャストから出されたお題をバンバンやっていくみたいな感じに。もうメンタル折れまくりでしたよ。それが今回一番きつかった(笑)。
――そんな罰ゲーム的な無茶ぶりもあったんですね(笑)。
服部:すごく辛かったです。芝居中に「もっと心の中を動かせ」「もっと分かりやすく表現しろ」って言われたんですけど、その振り幅がなかなかできなかったから、「一度全部取っ払って、恥ずかしいかもしれないけどやってみろ。それを超えたらできるんじゃね?」みたいな感じでやらされたんですよね。
――自分を解放するための荒療治という感じでしょうか?
服部:そうですね。キャスト同士も体当たりでやってましたし。喧嘩のシーンとかもあるんですけど、ガチでやるから稽古場でTシャツとか全然破れるんですよ。
ほかの稽古場では、あまり力入れずに素振りだけでやるので、なかなかないんですけどね。『Big Mouth』の稽古場は関係ないんです。ガンガン襟ぐりも伸びるし、喧嘩のシーンの最中にツバだって顔面に吐くし。本番でもそれをやったんですけど、本当にみんなが身体を張ってるような舞台でした。女の子もビンタされてましたし。
――そこに男女の差はないんですね。
服部:そうなんです。楽しいんですけど、すごい現場でしたね。だからこそ本番中のエネルギーがお客さんにも伝わるし。女の子がビンタされてるところなんて普段なかなか見ないから「うわぁ……」ってなったっていう声もありましたけど、そういう話を聞きながら「あぁ、やっぱり熱量とか伝わったんだなぁ」って思うし。
――そうして『Big Mouth』で手応えを感じた上で、次の舞台『グランギニョル』のジャック・ブレア役に挑まれるわけですが、見所や意気込みを聞かせてもらえますか?
服部:劇場も大きいですし、名だたる役者さんがいる中で、どうやって自分が輝けるかだと思ってます。その状況でも自分が見せられるもの、自分にしかできないことも絶対あると思うんで。
あとは台本を読んで、ジャックが何をどう考えているかを、演出家さんや脚本家さんよりもいろいろ調べて自分の中で練って持っていったら、「あ、そういう考え方もあるんだな」って思ってもらえるんじゃないかと思うんで。その準備を怠らないようにして挑みたいなと思います。その過程がすごく楽しみですし、もちろん「自分が誰よりも輝いてやろう、絶対負けないぞ」って気持ちでいるんで(笑)。
――新しい役に臨まれる時は、下調べをすごくするタイプですか?
服部:そうですね。その役について調べて、まぁ出てない情報とかもあるわけですけど。そういうのを自分の中で想像して、あとはセリフとかで自分と擦り合わせますね。「このセリフはどういう気持ちで言ってるんだろう?」って思ったら、自分が過去に経験したことと照らし合わせて「多分この時の気持ちで言ってるんだろうな。じゃあ確かに超辛いな……」とか。けっこう自分に寄せて考えることの方が多いんですよ。
――舞台でのお芝居のほか、スマートフォンのアプリゲーム『茜さすセカイでキミと詠う』では声優にも挑戦されたそうですが、この時の印象的だったエピソードはありますか?
服部:声優さんのお仕事をすることはあまりなくて、自分には珍しい経験だったんですが、やってみて分かる声優さんのすごさっていうのはありました。声だけであんなに表現できるっていうのは本当にすごいと思うし、やってみようとしてもなかなか難しい。
自分たち俳優は身体や声を全部使って表現するけど、声優さんは声だけでいろんなことを表すじゃないですか。悔しがってる演技でも俺たちは「くそっ」(拳でテーブルを叩く素振り)ってやって行動だけでも見せられるけど、声だけで悔しがっているのを表すっていうのも難しいし。ただ面白いなーって思ったのは、自分の演じるキャラクターを見た時に「このキャラが俺の声なんだ」っていう。
――服部さんが演じた正岡子規は、髪型もボブ風で優しい顔立ちをしていたりと、けっこう可愛らしいビジュアルですもんね。
服部:そうなんですよ。自分自身とは全く違うのに「あ、面白い!じゃあもうこれは俺なんだ!」って思えるから。それは楽しかったですね。これからもチャレンジしていきたいなって思いました。
――そのほかにも今後挑戦したいことはありますか?
服部:何だろうなぁ……それこそエンタメショーが好きなので、ミュージカルはやってみたいです。もちろん、ストレートのお芝居がやりたい気持ちもあるんですけど、それよりは何かサプライズが欲しいというか、ひとつ別の要素があった方が自分がワクワクするので。見ていてビリビリくる作品を作りたいんですよ。見終わった時にあれこれ語りたくなるっていうよりは、放心してしまうような作品。
あとは、今かなり興味があるのがタップダンスで。THE CONVOYさんのタップとかすごくかっこいいので、自分も今年はタップを勉強したいなって思ってます。それで、ゆくゆくは舞台でも披露したいので、次回の『Big Mouth』で取り入れられたらなと。
――今後の展開に期待ですね。では次に、稽古中の息抜き方法や、これは必需品というものがあったら教えてください。
服部:必需品……筋トレグッズとかは持っていきますけど。息抜きは、休憩とかの空いた時間に近くのカフェになるべく行きたいんですよね。稽古場でぐだっと寝てるよりは、ちょっと気分転換じゃないですけど、仲が良いキャストを連れて「お茶行こうよ~!カフェ行こう!」って。自分、けっこうカフェが好きで、ひとりでもいろんなお店に行ったりします。だから、それがいい気分転換にはなってますね。
――特定のカフェではなくて、いろんなところに行きたい感じですか?
服部:そう、新しいところにも行ってみたい。ひとりで行くところはけっこう定番のところが多いんですけど。キャスト同士で行くと、稽古場では話せないような新しい会話が生まれることもあるので。
小さな頃のお神楽の経験から俳優への道を志したという服部さん。舞台にまつわるエピソードから、演じることや伝えることへの熱い想いを感じます。後編では、上京後5年続けたというアルバイト先でのお話をうかがっていますのでお楽しみに!
取材・文:古原孝子
Photo:くさかべまき
隠岐で日本の伝統芸能のひとつである”神楽”というものに出会ったんです。
――では初めに、役者をはじめたきっかけから聞かせてください。
服部 武雄(以下:服部):生まれが兵庫県なんですけど、阪神大震災で父親の地元である島根県の隠岐の島に引っ越したんですよ。兵庫にいた頃にこどもミュージカルみたいなのをやっていて、引っ越し後はやれていなかったんですけど、隠岐で神楽というものに出会ったんです。日本の伝統芸能のひとつで“お神楽”って呼ばれていて、それを小学校2年生から高校を卒業して東京に出てくるまで、ずっと続けてましたね。
お囃子で横笛とか太鼓とかやったり、あとはお面をかぶって人の前で舞ったりもするんですよ。お神楽って神を降ろすような行事なんで、地元のおじいちゃんおばあちゃんがたくさん見に来てくれてたんですけど、あるおばあちゃんが人混みをかき分けて自分のところまで来て「背中を撫でてごせ、撫でてごせ」って声をかけてくれて。自分に神が降りてきてるって感じに見てるから、痛いところをさすってもらったら楽になるとか、そういうご利益みたいなのがあったんでしょうね。
それから「すごく感動した、とっても良かったよ」と言ってくれた人もいて。小さい頃のことでしたけど、何だかすごく感動して今でも鮮明に覚えてます。「こんなにいろんな人に影響を与えられるようなことを自分はしてるんだ」ってその時に初めて実感できましたね。そこからそういう仕事をしたいなって思うようになって、今に至ります。
――お神楽がきっかけで、今の俳優の道に進まれたんですね。
服部:そうですね、それが一番大きいです。「人に感動を与えたい」っていう気持ちが生まれたのがそこだったと思います。
――高校を卒業してすぐ上京されて、役者の道を歩みはじめたとのことですが、役者としてのキャリアを積むうちに見えてきた、自分の強みや、演じる上でのこだわりなどはありますか?
服部:自分は舞台をメインでやらせてもらってるんですが、一番大事なのは“出てるキャストがいかに楽しんでその舞台をやっているか”じゃないかなと思っていて。やってる本人たちが楽しんでないと、お客さんに楽しさなんて伝わらないよなって。最初の頃は全然そこまで分からなかったんですけど、今ではいつも頭に置いてやってます。
一緒のキャストにもそれは言うようにしてるし。中にはけっこう厳しい稽古場とかもあったりしますが、それすらも楽しんでちゃんと仕上げることでいい作品になるので。稽古中はひと月くらい毎日一緒にいるカンパニーなんで自然と仲良くもなるし、楽しみながら稽古して、舞台上でも楽しんで表現して、それでお客さんにも楽しんでもらう。それを自分の中ではすごく大事にしてます。
いっそぶつかることでよりいいものが作れたらなって。
――Twitterやブログのお写真を見ても、みなさん仲が良さそうですよね。楽しい雰囲気が伝わってきます。
服部:稽古場から楽しくやりたいなーって。好きなことやってるんだから、それを楽しんでやらなくてどうするんだって思うし。舞台って娯楽のひとつなので、言ってしまえば観なくても生きられるじゃないですか。そんな中でお客さんが来てくれて、その人たちをその時間どれだけ楽しませられるかかなぁと思ってやってますね。そんな感じに現場の空気も作りたいなぁと。
――そういうお話を伺っていると『マーカライト・ブルー ディーパー』で演じられていたパシオンと性格が似ているようにも思えます。行動力があって、情に厚いところが特に。
服部:あ、確かにそうですね(笑)。パシオンの役をもらった時も、そこはけっこう通じる部分かなと思ってました。「人から良く思われたい」って気持ちももちろんありますけど、結局のところは別に俺自身はどう思われてもいいから、その作品が良くなればって考えなので。共演者の仲がいいのもいいんですけど、その中でぶつかり合うのもいいと思うし。喧嘩してそれで深まるものもある。
言いたいことがあっても、遠慮しちゃって言えないことってあるじゃないですか。今は演出家さんでも役者に遠慮してるなと感じることも多くて、役者同士の方がまだ言いやすい部分もあるので。そこで言えるかっていうのもすごく大事じゃないかと思います。まぁ、やっぱり言いづらさはありますけどね!(笑)。でも、そこで我慢するよりは、いっそぶつかることでよりいいものが作れたらなって。
『Big Mouth』は思い入れの強い作品なんです。
――熱い気持ちを感じる言葉ですね。先頃まで舞台『Big Mouth』のソラ役で座長を務められていたということですが、その大役を終えた今の心境はどうですか?
服部:『Big Mouth』は昨年の公演でも座長をやらせてもらったりと、思い入れの強い作品なんですよね。プロデューサーとは10年以上の長い付き合いで、「こういう作品を作りたいなぁ」って話をしていて生まれたのがこの舞台だったので。それまで一緒に仕事はしたことがなかったんですが、やりたいことが詰まった作品で、その座長をさせてもらったのは、プレッシャーもありましたけどやりがいがありました。
――随分身体も作り込まれたそうですね。
服部:そうなんですよ! 一応“男性ストリップ”って謳ってるんで、かなり肌を出すんですよ。それなのに見せられる身体じゃないっていうのはやっぱりダメだなっていうのもあって、キャストみんなで鍛えてました。
――みんなで一緒に頑張ろう、と。
服部:プロテイン飲みながら「おい、今日鍛えてなくない!? 筋トレしてなくない!?」「よっしゃ、やるかー!」ってやりとりしたり。基本裸ですからね、稽古場では。お互いの身体を見て「お、きてるねー!」って言ったりして。意味分かんない稽古場でしたよ(笑)。
舞台でも歌とかダンスがあるようなものをやっていきたい
――ポールダンスもされていたそうですが、あれって簡単にできるものではないですよね?
服部:そうなんですよね。ポールをやってるのって、それまでにも見たことはあったんですよ。すごいなとは思いながらも「けっこうできるんじゃない?」って思ってたんですけど。いざやってみると、まぁできない! (笑)。
――脚の筋力が相当必要なイメージがあります。
服部:そう! 前提として筋肉もいるんですけど、より大事なのが多分いかにポールを押さえる皮膚のポイントを捉えるか。皮膚が擦れるので内股とかすごく黒くなっちゃって。筋肉痛にもなるし、炎症も起こすしでめっちゃ痛いんですよ。なかなか大変だなとは思いましたけど、せっかく経験できたんで今後もやっていこうと思います。
――筋肉よりも皮膚のポイントの捉え方が大事というのは意外でした。
服部:細い女性でもできるから、そうなんじゃないかなって。いやー、難しかった……(笑)。
――ポールダンス、今後も続けて活かしていけたらいいですね。もともとダンスはお得意なんですか?
服部:今までどこかで習ったりしたことはなくて、舞台から入ってダンスをやるようになりました。そこから楽しくなってスクールとか通い出して。今年のアタマ頃には、ひと月くらいロサンゼルスにダンス留学として行かせてもらったんです。自分はエンターテインメントが好きで、舞台でも歌とかダンスがあるようなものをやっていきたいなと思うので、勉強しに行きました。
本当にみんなが身体を張ってるような舞台でした。
――今回の舞台は、海外で磨きをかけてきたダンスの披露の場でもあったんですね。『Big Mouth』キャストとの稽古中の思い出のエピソードはありますか?
服部:稽古中の思い出……なかなかエグい稽古なんですよ、これが。身体的にエグいってのももちろんあるんですけど。プロデューサーが演出もやっていて、長い付き合いだからこそ自分のことをよく知ってくれてるので、かなり追い込まれましたね(笑)。
自分がすごく苦手なこととかもやらされて……本当はあんまり言いたくないんですけど、普段絶対モノマネとかそういうのやらないんですよ。だけど、稽古場で「全然ダメ! はい、モノマネやって!」「ちょっと待って、ホントない!! やらないし、できないし!」ってやりとりを30分くらいして。
結局「いいからやれや!」って押し切られて、そこにいるほかのキャストから出されたお題をバンバンやっていくみたいな感じに。もうメンタル折れまくりでしたよ。それが今回一番きつかった(笑)。
――そんな罰ゲーム的な無茶ぶりもあったんですね(笑)。
服部:すごく辛かったです。芝居中に「もっと心の中を動かせ」「もっと分かりやすく表現しろ」って言われたんですけど、その振り幅がなかなかできなかったから、「一度全部取っ払って、恥ずかしいかもしれないけどやってみろ。それを超えたらできるんじゃね?」みたいな感じでやらされたんですよね。
――自分を解放するための荒療治という感じでしょうか?
服部:そうですね。キャスト同士も体当たりでやってましたし。喧嘩のシーンとかもあるんですけど、ガチでやるから稽古場でTシャツとか全然破れるんですよ。
ほかの稽古場では、あまり力入れずに素振りだけでやるので、なかなかないんですけどね。『Big Mouth』の稽古場は関係ないんです。ガンガン襟ぐりも伸びるし、喧嘩のシーンの最中にツバだって顔面に吐くし。本番でもそれをやったんですけど、本当にみんなが身体を張ってるような舞台でした。女の子もビンタされてましたし。
――そこに男女の差はないんですね。
服部:そうなんです。楽しいんですけど、すごい現場でしたね。だからこそ本番中のエネルギーがお客さんにも伝わるし。女の子がビンタされてるところなんて普段なかなか見ないから「うわぁ……」ってなったっていう声もありましたけど、そういう話を聞きながら「あぁ、やっぱり熱量とか伝わったんだなぁ」って思うし。
「自分が誰よりも輝いてやろう」って気持ちでいるんで(笑)。
――そうして『Big Mouth』で手応えを感じた上で、次の舞台『グランギニョル』のジャック・ブレア役に挑まれるわけですが、見所や意気込みを聞かせてもらえますか?
服部:劇場も大きいですし、名だたる役者さんがいる中で、どうやって自分が輝けるかだと思ってます。その状況でも自分が見せられるもの、自分にしかできないことも絶対あると思うんで。
あとは台本を読んで、ジャックが何をどう考えているかを、演出家さんや脚本家さんよりもいろいろ調べて自分の中で練って持っていったら、「あ、そういう考え方もあるんだな」って思ってもらえるんじゃないかと思うんで。その準備を怠らないようにして挑みたいなと思います。その過程がすごく楽しみですし、もちろん「自分が誰よりも輝いてやろう、絶対負けないぞ」って気持ちでいるんで(笑)。
――新しい役に臨まれる時は、下調べをすごくするタイプですか?
服部:そうですね。その役について調べて、まぁ出てない情報とかもあるわけですけど。そういうのを自分の中で想像して、あとはセリフとかで自分と擦り合わせますね。「このセリフはどういう気持ちで言ってるんだろう?」って思ったら、自分が過去に経験したことと照らし合わせて「多分この時の気持ちで言ってるんだろうな。じゃあ確かに超辛いな……」とか。けっこう自分に寄せて考えることの方が多いんですよ。
声だけであんなに表現できるっていうのは本当にすごいと思う
――舞台でのお芝居のほか、スマートフォンのアプリゲーム『茜さすセカイでキミと詠う』では声優にも挑戦されたそうですが、この時の印象的だったエピソードはありますか?
服部:声優さんのお仕事をすることはあまりなくて、自分には珍しい経験だったんですが、やってみて分かる声優さんのすごさっていうのはありました。声だけであんなに表現できるっていうのは本当にすごいと思うし、やってみようとしてもなかなか難しい。
自分たち俳優は身体や声を全部使って表現するけど、声優さんは声だけでいろんなことを表すじゃないですか。悔しがってる演技でも俺たちは「くそっ」(拳でテーブルを叩く素振り)ってやって行動だけでも見せられるけど、声だけで悔しがっているのを表すっていうのも難しいし。ただ面白いなーって思ったのは、自分の演じるキャラクターを見た時に「このキャラが俺の声なんだ」っていう。
――服部さんが演じた正岡子規は、髪型もボブ風で優しい顔立ちをしていたりと、けっこう可愛らしいビジュアルですもんね。
服部:そうなんですよ。自分自身とは全く違うのに「あ、面白い!じゃあもうこれは俺なんだ!」って思えるから。それは楽しかったですね。これからもチャレンジしていきたいなって思いました。
今年はタップを勉強したいなって思ってます。
――そのほかにも今後挑戦したいことはありますか?
服部:何だろうなぁ……それこそエンタメショーが好きなので、ミュージカルはやってみたいです。もちろん、ストレートのお芝居がやりたい気持ちもあるんですけど、それよりは何かサプライズが欲しいというか、ひとつ別の要素があった方が自分がワクワクするので。見ていてビリビリくる作品を作りたいんですよ。見終わった時にあれこれ語りたくなるっていうよりは、放心してしまうような作品。
あとは、今かなり興味があるのがタップダンスで。THE CONVOYさんのタップとかすごくかっこいいので、自分も今年はタップを勉強したいなって思ってます。それで、ゆくゆくは舞台でも披露したいので、次回の『Big Mouth』で取り入れられたらなと。
――今後の展開に期待ですね。では次に、稽古中の息抜き方法や、これは必需品というものがあったら教えてください。
服部:必需品……筋トレグッズとかは持っていきますけど。息抜きは、休憩とかの空いた時間に近くのカフェになるべく行きたいんですよね。稽古場でぐだっと寝てるよりは、ちょっと気分転換じゃないですけど、仲が良いキャストを連れて「お茶行こうよ~!カフェ行こう!」って。自分、けっこうカフェが好きで、ひとりでもいろんなお店に行ったりします。だから、それがいい気分転換にはなってますね。
――特定のカフェではなくて、いろんなところに行きたい感じですか?
服部:そう、新しいところにも行ってみたい。ひとりで行くところはけっこう定番のところが多いんですけど。キャスト同士で行くと、稽古場では話せないような新しい会話が生まれることもあるので。
小さな頃のお神楽の経験から俳優への道を志したという服部さん。舞台にまつわるエピソードから、演じることや伝えることへの熱い想いを感じます。後編では、上京後5年続けたというアルバイト先でのお話をうかがっていますのでお楽しみに!
取材・文:古原孝子
Photo:くさかべまき