
ドーモプラスが俳優など、様々な分野で光を放っている仕事ビトにクローズアップし、これまでの道のりを辿る新企画「マイ・ブックマーク」。第1回はミュージカル『テニスの王子様』伊武深司役や、舞台『刀剣乱舞』鶴丸国永役などで活躍中の俳優・健人(けんと)さん。
3月には舞台『どろろ』への出演も控えている健人さんが、後編では現在心に抱いている目標や、アルバイト中に起きた意外なハプニングについてのエピソードを披露してくれました。
インタビュー前編はコチラ
刺激しあえる仲間とともに
――これまでの出演作で何人もの方と共演されてきていますが、高め合えるライバルとして意識している役者さんはいますか?
みんなが仲間でもライバルでもあるので難しいんですよね。でも、稽古場に同世代の人がいると「こうやって役作りをするのか」とか「このシーンでこういうやり方をするのか」と、心の中でずっと呟いている自分はいます。そんな中で、たまたまご飯に行った時に、演技の話になって盛り上がったりもしますし。
僕も「あのシーン、よかったよ」って言われたりして、「マジ? ありがとう」って。そうやって、お互いの姿を見てはそれぞれ刺激される、そういう形では共演している仲間と高め合えているのかなとは思います。
「人のために動く」自分なりに見つけた答え
――今後の目標や、やってみたい役柄、お仕事などはありますか?
ざっくり言うと、何でもしたいですけど……「何事にも全力で挑戦する」って今まで言ってきたので、それはもう当たり前として。今は「いかに人のために動けるか」を大事にしたいと思っています。
僕は演技のレッスンを受けた経験がなく、全て現場で学んできたので、セリフをもらった時にも真っ先に「このセリフをどういう感情で、どう言おう?」って考えちゃうんですけど。そうじゃなくて、そのセリフを誰に言うのか、それによってその人の心や行動がどう動くのかを意識して言わないと、お芝居って成立しないし、繋がっていかないんだなと思うようになって。
――お芝居は相手あってのものだ、と。
相手や自分がどう動きたいのかもありますけど、(お芝居は)キャッチボールでも、助け合いでもあって、その連鎖で次のシーンができていく。そして、自分が出ていないシーンや、その作中で関わっていない人にも、それは繋がっていくわけじゃないですか。実際、毎日舞台をやっていると、その日によって人の感じなんかが随分ちがいますし。テンポがいい日もあれば、じっくり重くいく日だなと感じる日もあります。
楽屋裏を見ていても、体調を崩しやすい時期には誰かがハチミツの飲み物を作ってきてくださったりして。そうやって、人と人との繋がりが、カンパニーや作品作りに関わってくると思うので、自分がそこでいかに動けるか……もっと頑張らないといけないです。
――自分の行動がお芝居やカンパニーに与える影響を考えながら行動するとなると、視野の広さや、察しの良さ、行動力まで必要になりますよね。人間力が試される感じがします。
これを一番できるのが多分、拡樹くんですね。最初に共演した時は僕が16歳、拡樹くんが今の僕の年くらいで「自分も25歳くらいになったら、拡樹くんみたいになれるんだ」と思ってたんですよ。でも20歳過ぎくらいに、人はそれぞれちがうんだって気付きました(笑)。
実際に同じ年になってみて、あの時の拡樹くんとはちがうけれど、自分なりの最善のやり方を探りながらやっていくべきなんだなと。その答えが「人のために動く」ことだと思ったんですよね。
――健人さんは健人さんなりのやり方で、ですね。
拡樹くん、本当にすごいんですよ。悪いことや愚痴を言っているのを一切聞いたことがないし。多分もう、いろんなところで“仏”って呼ばれてます。仕事もプライベートもめちゃくちゃ優しいし、でも言うべきところはきちんと言ってくれるし。周りの感情やその場の空気に流されずに、自分の芯をしっかり持って動ける方なので、やっぱり憧れますね。
アルバイト中に見舞われたハプニング
――では、DOMOがアルバイト求人媒体ということにちなんで、アルバイトについてのお話もうかがわせてください。これまでに経験したアルバイトの中で、特に印象に残っているエピソードはどんなものですか?
今までにやったのは、カラオケ屋と和食料理屋さん、あとは消防設備点検なんですけど。一番覚えているのは、深夜のカラオケですね。もう、成人式は大変です!(笑) お酒を飲み慣れていないのにいっぱい飲むし、こぼすし、それで大惨事になっていて。当時の僕はまだ10代でしたけど「あぁ……こうならないようにしなきゃな」って思いました。
――成人式帰りだと、人数も多そうですよね。
すっごい飲むし、電話で注文をとるんですけど、向こう側がうるさくて何を言っているのか聞き取れないんですよ。シンプルに大変でした。
――ほかにも、何か印象に残っているハプニングはあったりしますか?
ありますよ、いっぱい。和食料理屋の時に、僕はフロアで注文を取る人をしていて。お客さんから注文を受けていた時に、僕のポケットの中に入っていた携帯電話が反応してしまって。Siriが「すみません、何を言っているのか聞き取れません」ってしゃべりだした時には焦りましたね。
――Siriがオーダーを聞き取ってしまったんですね(笑)。
「いやいやいや、ちがうちがう……すみません、大丈夫です!」って、かなり慌てました。それから、消防設備点検の時には、火災報知器の信号がちゃんと届くか、非常ベルがきちんと鳴るか、設置されている消火器が錆びたりしていないかなど、チェックすることがいろいろあるんですけど、非常ボタンが作動するかどうかも確認するんです。
――あの、赤くて“強く押す”って書いてあるものですね。
その横に電話を付けてバッと押すと、管理人室側にいる人が警報がちゃんと届いているかどうかを確認してくれて。その作業を繰り返しながら、建物内の非常ボタンを順番にチェックしていくんですけど。あのボタン、押した後に元に戻す方法があるんですけど、種類によって微妙にやり方がちがうんです。
それをまだ1つしか覚えていなかった時に、指示を出されて「行ってきます!」ってはりきって向かったら、知っている方法を試してもボタンが戻らなくて、鳴り出した非常ベルが止まらなくなっちゃったんですよ。ジリリリリリリって、マンションの廊下で。
――それは焦りますね、あの非常ベルの音ってこわいですし。
「やべやべやべ!」ってなりました。ああいう時って、自分以外に誰もいなくても謝っちゃうものなんですね(笑)。すいませんすいませんって言い続けてましたもん。
――分かる気がします(笑)。そして、非常ベルにも種類がいくつかあって、止め方にもちがいがあるとは初耳でした。
そうなんですよ、微妙なちがいなんですけど。僕も先輩に教えてもらいました。そういう免許をもっている人の立会いが必要な点検なので、免許のない僕はお手伝いをするくらいではありましたけども。
――意外なアルバイト内容ですよね。びっくりしました。
同級生が働いていて、その紹介で入ったんです。
消防点検での人間観察が役作りの手がかりに
――アルバイトの経験が、今の俳優の仕事に役立っているなと感じることはありますか?
消防点検って、マンションの廊下だけでなく、全部屋を回るんですよ。あんまり人の部屋をじっくり見るのはダメなんですけど……何となく、部屋の雰囲気ってあるじゃないですか。「こういう雰囲気の部屋に、こういう感じの人が住んでるんだ」って、だんだん分かってきて楽しかったです。
――ほかの人の家におじゃまする機会って、そう頻繁にないですもんね。
ですよね。そのうち「こういう役だったら、こういう家に住んでるのかな」っていうところに繋がったり、部屋によっては「この家具の配置、めっちゃいいじゃん!」って思ったりもして(笑)。ベッドが少し斜めになるように置かれていて、スピーカーとテレビの配置から、完全にシアタールームだなって思えるような部屋を作っている方もいて素敵だなと思いましたね。
――点検は、住人の方にも立ち会ってもらうんでしょうか?
そうなんですけど、そこにも性格が出るんです。すごく見てくる方もいれば「今、ドラマがいいところだから、勝手にやっといてくれ」って、放置するタイプのおじいちゃんもいたりして。人間観察がたくさんできるバイトでしたね。
――ほかの一般的なバイトより、格段に深く踏み込めますしね。
住んでいる方によっては話もするので、会話が弾んでしまってしばらく部屋から出られないこともありました。おばあちゃんがたくさん話しかけてくれて、帰りに缶コーヒーをくださったり(笑)。自家発電機が置いてあるような地下にも、ポンプの確認や清掃をしに行ったりするので、普通じゃ見られないような場所にも足を踏み入れられたのが面白かったです。
自分の中に芯を持ち「人との繋がり、感謝の気持ちを大切に」
――さまざまなジャンルのアルバイトをされている健人さんですが、今、1日だけアルバイトができるとしたら、どんなところで働きたいですか?
うーん……何だろう……。今、ぱっと思い浮かんだのだと、深夜のオフィスの警備員ですかね。
――深夜の警備員というと、制服を着て懐中電灯を持って社屋を巡回しているイメージの……。
そう、そういうシーンがドラマなんかでよくありますよね。思いついた理由は特にないんですけど……ちょっとした怖さもありつつ、警備をしなきゃという使命感もありつつ、誰も見てはいないかもしれないけど、重要な仕事ですよね。ちょっとやってみたいなと思います。
――では最後になりますが、今、夢に向かって頑張っている読者の方に向けて、応援のメッセージをお願いします。
僕が言えることといえば、何かひとつでも続けることですかね。アルバイトをしている時って、楽しいこともあれば大変なこともありますけど、続けることに意味があると思うんです。いろいろなことがある世の中なので、必ずしも全てにあてはまることじゃないかもしれませんが。嫌なことや落ち込むこと、楽しいこともあると思うんですけど、それに振り回されない自分が己の中にひとりいて、一本筋を通せていたらいいんじゃないかなと。
それから、チャレンジする前から尻込みしないこと。やらなきゃいけないことは、いつかはやらなきゃいけないから、それなら楽しんでやったほうが絶対楽しいと思うんです。楽しいことのほうが、時間が過ぎるのが早いじゃないですか。……って、結局、心の問題になってきちゃうんですけど(笑)。ポジティブに、ありのままに行きましょう。
一番大切なのは人との出会いと繋がりを大切にすることと、シンプルに感謝の気持ちを持つことだと思うので。そこが完璧だったら、あとは結果としていろいろ回ってくるし、繋がってくると思うので。そこを大切にしてもらえたらと思います。
「人との繋がりや、感謝の気持ちを大切に」と語ってくださった健人さん。尊敬する先輩の背中を追いかけ、「人のために動く」という自分なりの答えを見つけた彼の言葉だからこそ、響くものがあるような気がします。次回出演作『どろろ』にもワクワクした気持ちで臨むという健人さんが、舞台上で見せてくれる姿に期待が高まりますね。
取材・文:古原孝子
Photo:青木早霞(PROGRESS-M)