
ドーモプラスが俳優など、様々な分野で光を放っている仕事ビトにクローズアップし、これまでの道のりを辿る新企画「マイ・ブックマーク」。第1回はミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン伊武深司役や、舞台『刀剣乱舞』鶴丸国永役などで活躍中の俳優・健人(けんと)さん。
3月には舞台『どろろ』への出演も控えている健人さんに、前編ではお芝居をする上で大切にしていることや、舞台で味わった悔しさを超えて掴んだものなどについて、じっくり語っていただきました。
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飛び込んでから知った「芝居の魅力」
――では始めに、健人さんが俳優の仕事を始めたきっかけについて聞かせてください。
俳優の仕事を始めたのは、東京に出てきたことがきっかけだと思います。それ以前からダンスと歌はやっていたんですが、上京して今の事務所にお世話になるようになってから、お芝居のオーディションを受けさせていただくことが多くなったんです。
そして初めての舞台に立ってからお芝居を続けていく中で、共演する先輩方の姿を身近で見るうちに「カッコいいな」「自分ももっと(お芝居を)やりたい」と思うようになりました。出演させていただく作品、それぞれで勉強させていただいています。
――では舞台経験を積むうちに、演技の世界でやっていこうという思いが芽生えた、と。
最初は、自分以外の人を演じるというのが、すごく恥ずかしかったんですけど。それまではお芝居というものに全く関わったことがなかったので、“セリフを言う”なんて国語の授業の音読くらいでしかやったことがなかったんです。それを最初に受けたオーディションで初めてやって。
――それは随分とハードルが高かったでしょうね。
頭の中が真っ白になりながらも、その時の自分なりに一生懸命やりました。そこから現場に入って、魅力あふれる共演者の方たちを見て、話して、いろいろ学ばせていただいてます。それに、ダンスや歌をやっていた時の経験が、今に役立っている部分も大きくあると思いますね。
殻を破れたきっかけは「全身タイツ」!?
――これまでさまざまな舞台に出演されていますが、ターニングポイントになったと感じる作品や役柄はありますか?
2.5次元と言われている舞台作品の中では、最初のターニングポイントになったのはミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン(伊武深司役)、それからしばらく後の、舞台『刀剣乱舞』(鶴丸国永役)でまた改めて意識が変わりました。
もっと遡って、先ほどのお芝居が楽しいと感じるようになったきっかけを考えてみると、劇団スーパー・エキセントリック・シアターさんの「タイツマンズ」(=劇団スーパー・エキセントリック・シアター〜タイツマンズ バラ組LIVE「シュワッチ!」目指すはタイツの王子様〜)だと思います。出演者全員が、終始全身タイツなんですよ。“全身総タイツミュージカル・アクション・コメディ”ということで、殺陣あり、アクションあり、なぜか急に歌も入るんです。
――要素が盛りだくさんですね(笑)。
コメディ系のお芝居をがっつりやったのが多分その時初めてで、稽古の最初の段階では、自分の中で殻が破れていないのを感じて、ずっと苦戦していたんですけど……それがある日、何かが吹っ切れたんでしょうね。思いっきりやり切って(舞台から)はけた時に、演出家さんがボソッと「アイツ、いいよ。これから花咲くよ」って言ってくれたのがすごく嬉しくて。
この作品を通して、いい意味でぶっ飛んでいる人ってカッコいいって感じたんです。自分の中に芯はありつつも、必要のない恥ずかしさなんかは持たずに、やり切ったほうがカッコいい、そう思うことがたくさんあったので。そこですかね、最初にお芝居の楽しさに気付いたのは。もっといろいろなことに挑戦したいなと思うようになりました。
――殻を破れたからこそ、見えてきたものだったんでしょうね。
それに、今考えてみるとすごいメンバーでしたよ。鈴木拡樹くんもいましたし。拡樹くんとは、初舞台の時から何度か共演させていただいているんですけど、この時は拡樹くんももちろん全身タイツでした(笑)。ちょうど僕が高校を卒業した頃で、みなさんに卒業式を祝ってもらった覚えがあります。
謙虚さと自信が、演技を進化させていく
――では、俳優の仕事をする上で大切にしていることを聞かせてください。
うーん、そうですね……。できるだけ共演者の方々と話すようにしてます。先輩方からいろいろなことを聞けますし。あとは、稽古場では、自分の出ているシーン以外も見られるので、いろんな方のお芝居を見ているんですけど。ほかの人のシーンを見ている時には、自分が一番下だと思って見ている、というか。その人にはその人の表現があるので、全てに学べることがあると思ってます。その上で「自分だったらこうしたいな」と感じることはありますけど。
――否定的に考えずに、自分の糧として全部受け止めるんですね。
それで、自分が出るシーンでは、それとは真逆に“自信しかない”っていう感じでいくのがいいのかなって。その2つの状態の繰り返しによって、自分が舞台に立つ度に気持ちもやり方も変わっていくと思いますし。
――なるほど! すごいバランス感覚だと思います。
昨年、舞台「駆けはやぶさ ひと大和」(※)に出演させていただいたんですが、前から出たいと思っていた作品の最終章に参加できたので、稽古場が楽しすぎて! 演出の西田さんが稽古場の真ん中にいらっしゃって、その斜め後ろの辺りから、ずっと見てましたね。自分の出るシーンが近付くと「台本を確認しなきゃ」と思うんですけど、別のシーンのお芝居が始まるとそっちを見たくなっちゃって大変でした(笑)。
(※新撰組隊士、横倉甚五郎として出演。西田大輔氏作・演出の舞台作品「もののふシリーズ」の最終章)
――それほど念願の作品への出演だったんですね。
そう、本当に念願でした。シリーズ1作目を観たのが大阪の千秋楽公演だったんですが、ひとりでバカみたいに号泣して、「自分もこういう作品に出たい」と思ったんです。その気持ちをずっと持ちながら、いろいろな作品を経験させていただき、最終章となる作品に関わることができて……もう、めちゃくちゃ嬉しかったです。緊張もしましたけど(笑)。
プレッシャーを超えて「自分は間違っていなかったと思えた」
――出たかった作品に出演できるというのは役者としての喜びのひとつだと思いますが、この仕事をしていてよかったと思った瞬間や、達成感を感じた瞬間は、ほかにはどんな時がありますか?
日々感じていますが、カンパニーとしてはやっぱり千秋楽ですね、稽古が始まった時からのいろいろなことを思い返すので。この前の舞台劇「からくりサーカス」の千秋楽では、広大(滝川広大さん/加藤鳴海役)の挨拶を聞きながら、僕が泣きそうになっちゃって。
「やり切りました、最後まで」っていう本当にシンプルな言葉だったんですけど、広大は一番動く役だったんです。舞台裏での一生懸命打ち込んでいる顔も知っているし、劇場に入ってからもどんどん変わって役に近付いていっている姿を見ていたので、その素直な言葉を聞いたら……もう、今でも泣きそうになるんですけど……。
――カンパニーの仲間同士として、思いもひとしおですよね。
いろんなことを助け合って乗り越えてのカンパニーだと思うので、千秋楽が終わっての思いは、やっぱり特別な感じがします。
――作品ごとの節目となるのが千秋楽ですが、では健人さん個人として、これまでに「俳優をやっていてよかった」と思ったのはどんな瞬間でしたか?
気持ちの面で言うなら、最初に舞台『刀剣乱舞』に出た時(「舞台『刀剣乱舞』虚伝 燃ゆる本能寺〜再演〜」)は大きかったですね。キャスト変更で、再演から参加したのが僕と瀬戸くん(瀬戸祐介さん/江雪左文字役)の2人だけで。『刀剣乱舞』は人気のコンテンツだし、僕の前に鶴丸国永を演じていたのが大先輩の染谷俊之さんだったんです。
それに、僕がそれまで演じていたのはクールめだったり、静かめだったりするキャラが多かった中で、鶴丸という飄々としたキャラに挑戦するというのもありましたし。殺陣の面でも当時の僕はまだ経験が少なかったので、いろいろな挑戦が重なって、稽古でも不安だらけの日々だったんです。
――それはかなりプレッシャーを感じそうです。
本番でも最初はかなり不安でしたけど、いざ初日の幕が開いて、お客さんの反応や温かさを感じた時にはすごく嬉しかったし、自分がやってきたことは間違ってなかったんだなって思える瞬間でもありましたね。この時に「これからも、やったことのないことでもビビらず挑戦していこう」っていう心が生まれた気がしています。
――自分の中で、超えられたものがあったという手応えがあったんですね。
周りが先輩ばかりのカンパニーというのも大きかったです。初日までは自分のやることでいっぱいいっぱいでしたけど、演出家の末満健一さんがご飯会を開いてくれたりして、今やもうみなさんにガンガン心を開いてますから(笑)。この時に、拡樹くん(三日月宗近役)ともだいぶ久しぶりの共演だったので、成長しているところを見せなきゃっていう思いもありましたね。
「暁の独眼竜」で感じた悔しさと手応え
――それでは今度は、悔しかったり、苦労したエピソードがあったら聞かせていただけますか。
先ほどの話も、苦労エピソードといえばそうでもあるんですけど……あ、「暁の独眼竜」(=「舞台『刀剣乱舞』義伝 暁の独眼竜」)ですかね。前作への出演を経て、前ほど構えずに参加できると思っていたんですけど……殺陣の量がえげつなかったんです。鶴丸は普段は鞘を左手に、刀を右手に持って戦っているんですけど、この時は両手で刀を掴むほうの型も覚えなくてはならなくて。
――型を2倍覚えた感じになるわけですね。
そうなんです。しかも、作中の後半で延々と戦い続けるという筋書きだったので、殺陣の量自体もすごくて。鶴丸の殺陣はダンスっぽい動きや滑らかな動きで、余裕を持った戦い方をしますし、どれだけしんどくても笑っておかないといけない(笑)。戦うシーンが長いのでペース配分が難しくて、ゲネプロか最終通しの時かに、初めて舞台上で倒れそうになりました(苦笑)。
――それは相当な状態なのでは……。
客席から見やすいように、舞台の奥半面がなだらかな坂になってるんですけど。その上でずっと戦っているので体力もバランス感覚もいるし、さんざん動いた後の斬られるシーンで頭を坂の下のほうに向けて倒れたら、ドッとヤバいことになって……危なかったですね。
――運動量がすさまじいのが伝わってきます。
「とりあえず食べなきゃ倒れる」と思ったので、毎日帰る時に家の近くの居酒屋に寄ってました。そのまま帰ると食べずに寝ちゃうので、お酒も飲まずにご飯セット・揚げ物・お刺身を無言でたいらげて(笑)。
公演数もけっこうあったんですが、やればやるほど「もっとこうしたい」という思いが出てくるんですよ。自分の中で満足しきれないというか……そもそも満足しちゃダメだと思いますし。そうやって「もっと、もっと」と思い続けていたら、あっという間に千秋楽を迎えていて。それぞれの公演で「もっとこうしたい」という一回一回の悔しさはあったんですけど、終わってみたら、すごくいい経験ができたと思いましたし、自分自身、何かが変われたなと思います。
――ひたすらに取り組んだ手応えがあったんですね。
周りの刀剣男士もわざわざ手合わせをしてくれたりしたので、まだまだ全然上手くはないですけど、ある程度殺陣で動けるようになったきっかけが、この「暁の独眼竜」じゃないかと思います。ここから殺陣のある役をいただくことも増えましたし。
健人流・オフモードのスイッチとは?
――稽古に本番にと忙しいことも多いかと思うのですが、気持ちをオフへと切り替える、健人さんなりの方法はありますか?
ゲームですね(即答)。プレステ4をやってるんですけど、忙しい時には30分や1時間と時間を決めて、ちょこっとやります。舞台期間中は1ヶ月くらい、夜に帰って来て朝にはまた行くという繰り返しになるので、「一度家に帰ってきたんだよ」って自分に分からせる意味でプレステを点けて、その時間だけは何も気にせずゲームをやって。やり終わったら、もう1回台本を読み直して寝たりします。
――少し気持ちを切り替えてから、またお芝居に戻るんですね。
寝ている間に整理されるので、寝る直前に台本を読むのが一番頭に入るんです。だから、一日の最後は仕事にあてるようにしてますね。――あとは、サバゲーにも行きます。
――サバゲー、ハマっている俳優さんが多いイメージです。
楽しいんですよ。この前の「からくりサーカス」で演じた阿紫花英良(あしはな・えいりょう)は殺し屋の役だったので、銃を使うシーンがあったんです。用意してもらっていた拳銃は(演技中に)飛ばしても大丈夫なようにゴム製で、引き金も引けないものだったんですけど。今回は殺陣中で飛ばすようなシーンはなかったので、稽古から本番まで、ずっと自分の銃を使ってました。サバゲー用で本物ではないですけど、弾が出るのでちゃんと出ないように細工もして。
初めのうちは銃を構えた時のガチャっていう音も音響さんが入れてくれていたんですが、僕が使っている鉄製の銃の音のほうがナマ感が出るからということで「構えの時には音を入れずに、銃声だけ入れるようにしよう」と変更になったんです。だから、こういうところでも意外と繋がるんだなと。
――役立ってますね!
銃の扱い方も何となく分かってきましたし。構える前にセーフティーを外したり、撃たない時には安全な状態にしたり、そこまでちゃんとやってみたんですが、相手役の方以外は、多分誰も気付いていないんじゃないかと(笑)。
緊張すらも楽しむ気持ちで舞台『どろろ』へ臨む
――3月2日の大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティから上演される舞台『どろろ』に出演されますが、ご自身が演じる賽の目の三郎太(さいのめのさぶろうた)役への意気込みはいかがでしょうか。(取材は1月下旬に行いました)
これから台本をいただくんですが、現在放映中のアニメでも、舞台本番までにはまだ三郎太は出てこないらしく、まずは役を掴むところからのスタートだなと思っています。三郎太は槍使いということで、ビジュアル撮影の時にも刀と槍を持ったんですけど。槍を使った殺陣はほぼ経験がないので、ここが挑戦になりそうだなと感じていて。知り合いの殺陣師さんに「教えてくれませんか」ってちょっとお願いしてみたりしています。
――準備できることは進めておこう、と。
はい。RICE on STAGE「ラブ米」で共演した田村升吾くんや、『刀剣乱舞』ぶりの拡樹くんもいるので、また二人の新しい顔が見られますし、僕も前とはちがった見せ方ができるようになっていればいいなと。成長したところを見せたいですね。
それから「からくりサーカス」で初共演だった唐橋充さんと、大湖せしるさんもいっしょなんですけど、お二人ともすごくいい方で。大先輩なのに気さくに場を盛り上げてくださって、カッコいいなぁと思っていたので、すぐにまた共演できて嬉しいです。
――久々の方も含め、再会できる役者さんが多い現場になるんですね。
しかも、脚本・演出が西田大輔さんなんです! もう今からワックワクしてます。絶対楽しい現場になると思いますし。『どろろ』の世界観を大事にしながら、僕自身もまた新しい一面を見せられたらなと思うので、ワクワクと同じくらい緊張もしていますけど、“全て楽しみながらやる”がモットーなので。緊張だけして行ったら、何もできないですから。
稽古中には、ほかの役者さんのお芝居を熱心に見ているという健人さん。その学ぶ姿勢や向上心が、プレッシャーや悔しさを超えて演技を磨く、心の強さの源なのではと感じました。後編では、現在心に抱いている目標や、アルバイト中に起きた意外なハプニングについてお話をうかがっていますので、どうぞお楽しみに!
取材・文:古原孝子
Photo:青木早霞(PROGRESS-M)