今年も秋の静岡名物、「大道芸ワールドカップin静岡」が開催され、概ね天候にも恵まれた静岡街中は大賑わい。夢のような4日間は、大盛況のうちに幕を閉じました。


冬になっても週末の街中では、七間町の劇街ジャンクションなど、静岡の大道芸はいつでもアツい。


その群衆の中で、ずっとカメラを構え続けていた一人のカメラマンがいます。


今回は、大道芸に魅了され、その大道芸人の姿をカメラに収め続けてきた写真家、佐治惣一朗さんに「大道芸の魅力」についてお話を伺いました。



「トチローさん」は、静岡の人気者



佐治さんは、静岡の人ではありません。しかし、静岡の大道芸人や大道芸ファンには、
「トチローさん」の愛称で、かなり名の知れた方なのです。


静岡で大きな大道芸の催しがあれば、必ずといっていいほどカメラを手にした彼を群衆の中で見つけることができます。





今回、取材させていただいている間も、何度となく「トチローさん」と呼び止められ、親しく言葉を交わしたり、冗談を言って笑い合う姿、写真の仕事依頼を受ける姿を拝見しました。


さて。どうして、静岡在住ではない佐治さんが、こんなに静岡で知られるような存在になったのでしょうか。



「大道芸ワールドカップ? 何だ、それ?!」が、始まり






佐治さんが、大道芸人の写真を本格的に撮り始めたのは、「大道芸ワールドカップin静岡」を知った時でした。最初は、そのイベント自体の存在が信じられなかったそうです。


彼が大道芸というものを最初に認識したのは、長崎を旅したときに立ち寄ったテーマパークでした。


異国の街を模した風景の中に、賑やかな人だかり。子供たちの歓声や、拍手の向こう側には、パントマイムやジャグリングを披露している大道芸人たちの姿がありました。


その出逢いからしばらくの間は、「お祭りの賑やかし=大道芸」と思っていて、どこで催されているのか、場所を探すのに苦労していたそうです。


そんな大道芸を、メインイベントに据えたフェスティバルがあるなんて!


実際、インターネットで情報を見つけた時も、「何だ、それ?!」という感覚だったそうです。
そして佐治さんが、半信半疑で静岡にやってきたのが、2002年でした。


静岡の街中、どこに行っても、大道芸、大道芸、大道芸!! 今までのように探す必要などありません。あらゆる種類の大道芸を、街中のどこででも観られるのです。


もちろん、その様子を夢中でカメラに収めたのは言うまでもありません。
それから毎年カメラを片手に秋の静岡を訪れるようになり、十年余り。


その間、大道芸人や大会のスタッフなどとも交流が生まれ、逢えば声を掛け合い、時には酒を酌み交わす。そんなふうにして、名物カメラマンの一人、「トチローさん」が定着したのです。



大道芸を求めて、西へ東へ。夢中にさせてくれる、大道芸の魅力とは?






佐治さんの趣味は、旅をすること。


日本全国、大道芸を追いかけて旅に出掛けます。もちろん、観光に出掛けることもしょっちゅうで、ご自宅にいる方が少ないという月もあるほど。


佐治さんにとって、それだけ夢中になれる大道芸の魅力とは何なのでしょうか?


大道芸には、編集を施したテレビ画面を通してでは決して味わえない魅力、生のパフォーマンスだからこそ生まれる、演者と観客との一体感がある、とおっしゃいます。


一期一会の観客のため、長年応援してくれているファンのため、この一瞬を楽しんでもらおうと、一生懸命に演者が作り上げた世界観。その苦労も、時には失敗も、リアルタイムに目の前で繰り広げられる。演者と観客の反応が、ダイレクトに感じられるからです。


旅に出て、大道芸や美しい景色を写真に収めるのはもちろんですが、佐治さんにとっての旅とは、「地元の人との交流」が大部分を占めています。


大道芸と出逢ってからは、静岡だけに留まらず、各地で開催される大道芸のフェスティバルに赴くと、周りに見知った顔が多いことに気付きました。そのうち、どちらからともなく声を掛けたり掛けられたりして、集まる人々、そしてその土地との交流が生まれていったのです。


交わす言葉は少なくても、お互い「大道芸が好き」という、ただそれだけで通じ合えるものがあるのかもしれません。



県外から見た静岡。土地には、その土地ならではの「間」がある






県外在住の佐治さんに、「静岡」は、どんな風に映るのか、尋ねてみました。


さすがに旅慣れた佐治さんは、静岡の印象を富士山のように目に見える風物ではなく、空気感だと答えてくれました。


静岡にしろ、東京にしろ、大阪にしろ、その土地、地域性、独特の空気感がある。解りやすく言えば、その土地土地、違う「間」があるのだそう。


大道芸にしても、東京を拠点とする芸人が静岡に来たら、「静岡の間」で演じている。
演目を変えていたり、例え同じ演目だったとしても、東京で観るのとは少し違う。その地域性に合わせた「間」を大事に演じている、と。


静岡の「間」は、その土地に根付いている人にはなかなか気付けない、静岡独特のほんわかした人柄を表している。だから静岡が好きだと、佐治さんは語ります。



写真は、人柄も生き様も写す


佐治さんがカメラに興味を持ったきっかけは、お父様が大切になさっていたカメラでした。


なかなか触らせてもらえなかった高級なカメラは、大人の象徴。


「大人になれば、自分のカメラを持つ」、そう思って心ときめかせていた少年時代。


大人になってお金を貯めて初めて一眼レフを買った時、「これで素敵な写真が撮れる」と信じて疑わなかったそうです。


しかし、当時はデジタルカメラではなく、フィルムの時代。自分ではベストショットと思っていても、現像してみるとどうも納得がいかない。


なぜ、高いカメラなのにキレイに撮れないのか? という疑問から、露出やシャッタースピードを変えてみたりと、独自に研究をスタートされたそうです。





撮影の苦労話は? と聞いても佐治さんは、「自分が好きでやってることに苦労はない」ときっぱりおっしゃいます。


ただ、写真を撮るときは、演者と観客、その両方の邪魔にならないよう気を配る。決して特別な存在にならず、一観客であるよう心がける。それが良い写真を撮るため、テクニックよりも大事なことだと、佐治さんは教えてくださいました。







路上の舞台を縦横無尽に動き回る大道芸は、カメラの師匠に教わった撮影技術的なことが通用しないことを痛感し試行錯誤したそうですが、たとえ納得のいかない写真でも次に繋がるヒントをくれる。


次にはもっと良い写真が撮れる。その次はまた……と、自分の限界を作らず常にチャレンジする精神が、素晴らしいベストショットをもたらすのです。


その精神は、大道芸人たちの意識とシンクロします。
昨日よりもっと良い演技を、技をと、日々鍛練している大道芸人たち。


一瞬の技、





一瞬の笑顔、





一瞬の輝き。





佐治さんが撮る写真の中に芸人の魅力が詰まっているのは、カメラ越しに見る目が澄んでいるから。


「好きこそ物の上手なれ」
佐治さんに出逢って、実感した言葉でした。



まとめ


佐治さんのお話、いかがでしたでしょうか?
静岡だと大道芸は週末街中でも観られるので身近に感じられるようですが、県外の方からすると、大道芸を観るのは一大イベントなのかもしれません。


取材の最後に佐治さんは、「僕の写真を見た人が、現地に大道芸を観に行きたいと思ってもらえたら嬉しいですね。それが、僕たちカメラマンの役目だと思っていますから」と、締めくくられました。


大道芸に興味をお持ちの方は、たくさんある県外の大道芸イベントにも出掛けてみてはいかがでしょうか。静岡とは違う、何か新しい発見があるかもしれませんよ。


写真撮影 佐治惣一朗


<ライター>

猫たぬき
時に、舞台の脚本を書くシナリオライター。趣味、主婦業。静岡に住み始めて十年以上経つのに未だ関西弁が抜けない生粋の関西人。いつまでも新鮮な目で静岡を見つめ、楽しくおもしろい記事を綴っていきたいと思います。

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