島田市で梅工房を営む大石富佐子さんは現在71歳(取材当時)。

事業化したのが5年前とお聞きしてそのバイタリティに驚くばかり。

定年退職した夫の昭さんや、休日には息子さんも巻き込んで、静岡県島田市のおいしい梅を広める活動が着々と根付いてきています。


今までもやりたいことに真正面に取り組んできた富佐子さん、その背中を押してくれた多くの出会いもまた印象的。そんなお話をお聞きしてきました。



「島田のおいしい梅を食べてもらいたい」という気持ちが原動力。



「ここ、島田市伊太は八房<やつふさ>梅といういい梅がとれるところなの。こちらに嫁いできて、漬けたらおいしくて。それではまってしまって」と、朗らかに笑う富佐子さん。


『八房梅』は、南高梅より少し小ぶりの中梅、種が小さく実が肉厚で、いわゆるジューシーな果実。八房の名の通りたくさんの実が房状につくのが特徴です。

この梅に惚れ込んだ富佐子さんは梅干しを漬けて、周りの人に差し上げていたそう。


経理のパートからはじめて最後は役員として勤めていた建設会社で働く傍ら、せっせと梅仕事。

評判を呼んでどんどん作る量が増えていったと笑います。



うまくいかないならプロに聞け!紀州の梅農家に突撃!



「たくさん作るとうまくいかなくて、じゃあ聞きに行こうと紀州の農家へ。


なんの紹介もないしアポイントも取っていないから、タクシーで連れて行ってもらって。

押し掛けて、畑も、漬けているところも見せてもらいました。

樽の上の方が白くなるのを悪いカビだと思って捨てていたけれど、それが美味しくなる菌だと教えてもらったりね。


見ず知らずの素人に対応してくれたことに感謝。いいものを作らなきゃという気持ちも強くなりました。当時教わった技や、ノウハウをこれからもつないでいきたいですね」。



やりたいことをやろう、社会のために動こう、はドイツでの経験から。



富佐子さんの人生、ちょっと前のことも振り返ってみます。


飛騨高山に生まれ、結婚して静岡県島田市へ。

学んでいた経済を仕事に活かそうと会計事務所に勤務。子供3人にも恵まれ、家と職場を忙しく往復する毎日でした。


ところが、突然、海外へ!

「教員の夫がドイツの日本人学校に赴任し3年間。一番下の娘は生後10ヶ月でした。

とにかく楽しかった!

現地のコミュニティに参加し、社会活動を行う中で、価値観が変わりましたね。“働くこと”も柔軟に考えるようになりました」

と、当時を思い出しながら、確かめるように話してくれました。


「確かに、この時の経験がそれからの生き方にも影響しています」。

帰国後、建設会社で経理のパートに。仕事以外には子供3人のPTA、それが終わると民生委員を15年務めました。

「地域の活動に積極的になったのは、ドイツでの経験が後押ししてくれていたんだと思います。島田市の100人会議に参加し島田市観光資源について、2年勉強しました」。


お話を聞くとすべてがつながっていきます。

梅工房の仕事は島田の梅文化を普及させる、社会的な意義を持った取り組みでもあるんですね。



念願の加工場を設立。「梅工房おおいし」が大きくはばたきます。



さて本題の梅のお話。


梅干し作りが本格化するにつれて、管理する人がいなくなった梅畑を引き継いだり、茶畑の跡地をつかってと話が舞い込んだりし、梅の栽培にも携わることに。


「栽培は、定年後の夫にまかせ、近くに住む息子やその友達も協力してくれています。夫はこんなはずじゃなかったと言っていますが…(笑)」。


自園栽培なら好きなように栽培できるのもメリット。青梅で収穫せずに、すべて完熟させてから収穫しています。


すると加工場も手狭に。

「最初は自宅で漬けていたの。家中が漬け桶に占領されちゃって」。運良く、梅畑の隣の陶芸工房だった建物を貸してもらえることに。

「風情ある古民家を借りています。建物も素敵だけど、場所がいいでしょ」。島田が一望できる丘に、梅工房おおいしが誕生しました。


看板は、富佐子さんがドイツで習ったトールペイントで製作しました。(冒頭写真)



作るだけでなく、売るということを考える。引き継いでいくための事業に。



「趣味なら収益は度外視だけど、夫も巻き込んで事業化したからには、経営を考えなくては」。

モノを作って終わりではなく、どう売るかが重要に。


パッケージやロゴマーク、ホームページなどは勤めていた建設会社に当時あったデザイン部門の人たちの制作。お客様からの評判もよく、若い人たちの感性にまかせて良かったと話します。


「いいものを、手間をかけてつくれば価格は高くなってしまいます。

その価値がわかる人に届けるしくみ、売り方を考えていくのが今の私の仕事。今年は梅3.5tを漬けました。梅畑も広がり、事業も拡大し、もう引くにひけませんから」。


経理は富佐子さんの専門分野。

「女性のパートさん6人くらいにきてもらっています。週に3日の人もいれば、月に2回の人も。子育て、介護、それぞれの状況を考え合わせながら働いてもらっています。長く続けていくためにも、柔軟な働き方が求められますね。」



新しい出会いから、新しい商品へ。梅の可能性はまだまだ広がります。



品質が認められ、梅干しは「島田市の逸品」静岡県の「ふじのくに新商品セレクション」の金賞に認定。


「こういう肩書きはいらないと思っていましたが、もらえるものはもらっておけとすすめられ、商品に付加価値がつきました」。

能動的に動いて、地域のマルシェにもどんどん出店。

「ある日、『醤油で漬けると良い』といってくれる人に出会い、醤油づけの新商品開発につながりました」。

行きづりの人のふとした一言にも耳を傾けていると、心に響くメッセージや、アイデアが飛び込んできます。どんな小さなことからも学ぼうとする富佐子さんの姿勢に脱帽です。


ニコニコ笑う富佐子さんに、最後に、苦労はなかったですか?とお聞きしてみました。


「落ち込んだこともあります。そんな時は“体調が悪い”と思えばいいの。睡眠をとって、栄養をとって。

もちろん、それだけでは解決しないけれど、気持ちを切り替えること。

落ち込んでいるのは自分だけだと気づければ視野も広がってきますから。

いやなことを忘れることも大事でしょ」と、またしてもチャーミングな笑顔です。


オリーブオイル漬けやゼリーなど人気商品も続々誕生。次はドレッシングを開発中です。

梅干しも、富佐子さんも、まだまだ可能性にあふれているようです。


2022年11月25日公開


梅工房 おおいし

工房:静岡県島田市伊太1094-2

tel 0547-37-1218

梅工房 おおいしサイト
 

島田市伊太産の梅に惚れ込んだ富佐子さんを中心に、自園での梅の栽培から加工、販売までの全てを手がけています。梅一粒ずつを手作業で漬け込むていねいな仕事、味にも定評があり、静岡県のふじのくに新商品セレクションで金賞を受賞、島田の逸品にも認定されています。JAまんさいかん・蓬莱橋897.4茶屋・KADODE OOIGAWAでも販売。オンラインショップもあります。


<執筆>

DOMO+編集部

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