冬のごちそうと言えば、何を想像するでしょうか? やはり鍋? 家族と囲む鍋は、冬ならではのごちそうですね。では、手軽に食べられる温かいおやつと言えば? そう、おでん!

おでんは、地方ごとに、いろいろな「ご当地おでん」があります。薄味の関東炊きもあれば、味噌で煮込んだ、味噌おでん。静岡にはもちろん、「しぞーかおでん」! 今や、缶入りおでんまで発売される勢いです。

今回は、「静岡おでんの魅力」について語りたいと思います。

静岡おでんの特長

静岡おでんの特長といえば、あの独特の黒いつゆ。おでん鍋の中には、ひとつひとつ串に刺したおでん種が、所狭しと並んでいて、黒はんぺんや、信田巻き、白焼きなど、魚の練り物が数多く入っています。からしの他に、「だし粉(けずり粉)」と呼ばれる粉をかけて食べる、というところも特長です。

店で食べるおでんは、鍋の中から好きなおでん種を選ぶ楽しさがあり、それは駄菓子屋でお菓子を選ぶのと似ています。

「静岡おでん」とは、観光客が言う「ご当地おでん」のことで、静岡県民にとっては、単に「おでん」として、駄菓子屋で気軽に味わえるおやつ感覚なのです。

「静岡おでん」のお店

葵区東草深にある「大やきいも」さんという、老舗のお店を取材してきました。

おでんの話じゃなかったの?! とお思いでしょうが、もちろん、のれんに大きく書かれているように、おでんもあります。

焼き芋屋さんが、おでんを始めたワケは? と4代目店主の中村さんに取材したところ、「この店が明治時代からあることは分かっているが、何年創業か?と問われるとハッキリしない。それに付随して、大学芋やおでんも始めたが、それもいつからかはわからない」とのことでした。
 
「ただ何となく」これが、この店の醸し出す空気感なのかもしれません。有名店や、頑固親父の店のように、押し付けも気取りもない。学生が気軽に集える、駄菓子屋のおでん屋さん。「大やきいも」さんとは、いったいどんなお店なんでしょうか。

昭和を維持し続ける老舗の心意気

私がこの店を取材したのには理由があります。私の出身は大阪で、大阪は「粉もん文化」の代表。子供の頃のおやつは、駄菓子屋で食べる、お好み焼きでした。

カラカラと引き戸を開けて入ると、駄菓子の並んだ棚の側に鉄板があり、「おばちゃん、お好み」と言うと、(関西人は、「お好み焼き」と言わず、「お好み」で通じる)奥の座敷で店番をしながらテレビを見ていたおばあちゃんが出てきて、「お好み、何枚や?」と聞きながらキャベツを刻むという、昭和の光景。

「大やきいも」さんは、カラカラと引き戸を開けて入ると、目に飛び込んでくるのは鉄板の代わりにおでん鍋。

湯気の立つおでん鍋の中には、長年継ぎ足しで作られた黒いつゆに浸かったおでん種。串を刺した種は、グツグツと煮込まれていい色に染まり、選ばれるのを今か今かと待っていて、「お好み焼いて」の代わりに、「おでんちょうだい」と言いたくなります。昔、皆が過ごした昭和の香りを、損なうことなく、この店は持っています。

時が止まったような、という表現はしたくない。変わらないものなど何もない。変わらないのではなく、変えないのだと。移りゆく時代の中で、継ぎ足し継ぎ足しで旨みを増したおでんつゆと共に、店は確実に時を積み重ねています。それでも変わらないその佇まいは、代々受け継がれてきた店主の、想いと努力の賜物なのです。

店主の中村さんとお話していても、維持し続けることが、どれほど大変なことなのかが伝わってきます。しかし、その苦労を決して表には出さない心意気。その心意気が、このほんわかとした空気感を生み、客である私たちを幸せな心地にしてくれるのです。

おでん、焼き芋、大学芋のみならず、注文してから握ってくれるおにぎりや、季節物の炊き込みご飯。懐かしいラムネ、瓶入りのコカコーラ。みかんのアイスや、瓶のコーヒー牛乳。暑い夏には、かき氷、ところてん。一歩店の中に入れば、昭和がてんこ盛りで、地元の人から、観光客、老若男女問わず、皆が集う理由がわかります。

おでんの定番、大根がないワケ

おでんの定番と言えば、大根。刺身のツマや、大根おろしなど、いつもは脇役の大根も、おでんの世界でだけは、堂々と主役を張れます。しかし、その大根が、この「大やきいも」さんにはありません。

実は、大根というのは、おでん種としては厄介なものらしくて、煮込むと水分が出てしまうので、おでん鍋に入れておくと、つゆが薄まってしまうのです。

長年継ぎ足しで受け継がれてきたつゆが薄まってしまうのは困る。だからと言って、大根のために別に煮込んで、薄まったからとつゆを捨ててしまうのもしのびない。

そんな苦渋の選択で、「大やきいも」さんには大根はないのです。「大根ないの?」とガッカリせず、他の店にはない変り種を楽しみましょう。

まとめ

最近はテレビの効果もあって、観光客も多く訪れる「大やきいも」さん。のんびりしたいなら、平日が狙い目。土日は、お昼前から混み始め、ピーク時には待ち時間も出るそうです。

おでんと焼き芋、ほんのり温かさの残るおにぎりを頬張りながら、慌しい日常をしばし忘れ、ゆったりとした時間の流れの中で癒される。そんな「大やきいも」さんを、訪れてみてはいかがでしょうか。

大やきいも

〒420―0865 静岡市葵区東草深町5-12
054-245-8862
定休日 毎週月曜、第2火曜日
営業時間 10時~18時
※この情報は取材時、2016年12月現在のものです。定休日や営業時間など、変更する場合がありますので、事前にお問い合わせください。

<ライター>

猫たぬき
時に、舞台の脚本を書くシナリオライター。趣味、主婦業。静岡に住み始めて十年以上経つのに未だ関西弁が抜けない生粋の関西人。いつまでも新鮮な目で静岡を見つめ、楽しくおもしろい記事を綴っていきたいと思います